疾風迅雷 本
□第13Q
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「GW明けたらすぐ予選かー早っえーなー」
「あと3週間くらい?」
練習後のストレッチ中、降旗と福田は談笑していた。
「けど先輩達って去年決勝リーグまで行ったんだろ?」
「しかも今年は火神や黒子もいるし1〜2回戦くらいは…」
「だアホ、何言ってんだ」
「ぁいてっ!!」
のんきな会話を聞いていた日向の拳が二人の後頭部に炸裂する。
「スイマセン…」
「一度負けたら終わりのトーナメントだぞ」
『ですね。気を抜いていい試合なんてありませんから』
「マネージャーの言うとおりだ。気ィ引き締めろ」
日向の顔に緩みはない。その雰囲気に圧倒され流石の二人も生唾を飲み込むので精一杯だった。
「主将ー予選トーナメント表コピーしてきましたー」
「サンキュー。じゃ、みんなに渡して」
真琴の元にも回ってきたトーナメント表。そこに連なる文字からまずは【誠凛】を探す。
『(同じブロック内で、ここ最近目覚ましい発展を遂げた高校は僕の知る限り特にありませんね)』
「“キセキの世代”がいる秀徳ってトコとやるには…決勝か…」
「こーやって表になるとやっぱ多いなー…って、2枚目!?」
「まぁな。説明は…マネージャー頼んだ」
『予選トーナメントはA〜Dの4ブロックあります。各ブロックの頂点一校のみが、決勝リーグに出場できます。
さらにその決勝リーグで上位3チームに入って初めてインターハイに出場できます。
ね、福田君に降旗君。僕が先ほど言った言葉の意味、理解していただけましたか?』
二人が頷いたの見た後、説明を続ける。
『300校以上の出場校から、選ばれるのは3校のみ。1%の選ばれた高校生しか経てない舞台。それがインターハイ』
ですが…僕はそう思いません。その言葉に日向が反応した。
「そう思わないって…どういうことだ?」
『“選ばれる”のではなく、“掴み取る”んですよ。受け身じゃダメです』
その言葉に部員全員が頷いた。
「確かにな。じゃ、インターハイへの切符、掴み取りに行くか!」
「「「おう!!」」」
みんなの心が一つになった時、体育館にリコの声が響いた。
「海常の時はスキップしてたけどしてねーな」
「カントク、今日はスキップとかは…」
「するか!!」
「公式戦でもヘラヘラしてるワケねーだろ」
『それにしても機嫌悪いですね…。どうしました?』
「どうしたもこうしたも…ちょっと厄介な選手がいるのよ」
ポケットから携帯を取り出し少し操作した後、皆に画面が見えるようにする。
「ビデオは後で見るとして…まず写メ見て!!」
「これは!……かわいいが」
『猫!!』
過剰な反応を見せる真琴。その横に黒子が並ぶ。
「動物、好きですもんね」
『はい!とっても!!でも、今は猫に反応してる場合じゃないですからね…』
雰囲気を一瞬で切り替え、同時に変わった携帯の画面を再度見る。
「名前はパパ・ンバイ・シキ。身長200p体重87s。セネガル人の留学生よ」
皆の顔の表情が一瞬で凍りついた。意味は違うが、開いた口が塞がらない。
「セネガ…でかぁ!!」
「アリなの!?」
「留学って…てゆーかゴメン。セネガルってドコ!?」
『セネガルはアフリカ大陸の大西洋側にある国で、周囲をモーリタニア・マリ・ギニアなどに囲まれている小国です』
「説明ありがとう。でも全然わかんない!!」
全く聞いたことのない国名ばかりが真琴の口からすらすらと出てくることに驚く。日向の頭のキャパシティはパンク寸前だ。
というか理解できるわけがない。火神なんか少し前にショートし、パンクしていた。
『…なんかすみません、火神君』
「い、いいって…」
「仕方ないですよ真琴。火神君は筋金入りのバカですから」
黒子の皮肉めいた言葉にも、今は反応できないようだ。
「…まぁ、とりあえずこのパパ・ンバイ…なんだっけ?」
「パパ・ンバ…」
「話が進まん!黒子君、なんかあだ名つけて」
『ですって、テツ』
「お父さんで」
「何そのセンス!?…だからこのお父さんを…」
話を進めようとしても、腹を抱えて笑うだけで精一杯な一同。話など聞いてるわけがないのだ。
「聞けよ!!特徴は背が高いだけじゃなくて手足も長い。とにかく“高い”の一言に尽きるわ」
戦力アップに外国人選手を留学生として入れる学校は増えてきている。別にルール違反でも何でもなかったからだ。
『新協学園…でしたよね。去年までは中堅校じゃありませんでした?』
「ええ。たった一人の外国人選手の加入で完全に別物のチームになってるわ。
届かない…ただそれだけで、誰も彼を止められないのよ」
ただただ静寂がその場を支配する。
「…あのね、だからって何もしないわけないでしょ!!ってわけで火神君と黒子君。あと真琴ちゃん!
二人は明日から別メニューよ。真琴ちゃんは二人のサポートというか…練習相手になってもらうわ!!」
『はい!!是非!!』
嬉しそうに勢いよく返事を返した真琴に、黒子は密かにため息をついた。
「(明日の帰り、僕は生きているでしょうか…)」
「予選本番5月16日!!それまで弱音なんて吐いているヒマないわよ!!」
「おう!」
沈んでいる黒子とは対照的に、周りの気合は十分であった。