神ノ定メ 本
□第5夜
3ページ/5ページ
レムはクロウリーと共にラビとアレンよりも先に汽車に乗り、寝ていた。
ふと…レムは目が覚めたかのように思った。が、そこは先ほど寝た汽車の中ではなく、瓦礫の山の上に倒れていた。
『夢…か』
辺りを見回すと、その瓦礫が見知ったものである事に気付いた。…黒の教団の塔だ。
『もしや…これはリナリーが見るはずのあの夢…!?なぜ僕までもが…』
確かにその瓦礫は塔そのもの。そして、レムはその光景を見ていた。
印刷された紙で。空を見上げれば、想像していた通り白い空に黒い三日月が浮かぶ。
下の水面を見れば、エクソシスト、または探索部隊のものなのだろう、私物が浮かんでいる。
『僕は…なぜこの夢を………!!』
自分の手を見て、驚いた。人間の、手じゃない。これは、獣の手だ。
鋭い三本の爪に、黒い皮膚。下半身を見れば、まるで蛇のような細長い身体。
足も手と同様に三本の鋭い爪が生えている。
『…』
無言で水面をのぞく。そこに映った自分の姿に絶望した。
『イノセンスに…呑まれた、姿』
龍そのものだ。頭からは角が生え、鋭い牙もあり、目も赤くなっている。唯一変わらないのは右目にある逆十字架のみだ。
『へブラスカに言われた終末の体ですか』
へブラスカには前々から言われていた。
―いつか、お前はイノセンスに呑まれ、そのまま消えさる時が来るかもしれない―
…と。覚悟はしていたつもりだった。
『僕は黒の教団と共に消える運命…それに、あの岩の上にいるのはリナリー。という事はあの下にアレンの亡骸が…』
ギュっと、獣の手を握りしめる。リナリーの傍に居て慰めたい、元気づけたい。でも…
『この姿で行ってはもっと絶望に追い込むだけでしょうね…』
―オマエハ、選バレシ神…―
『!!誰だ!!』
―オマエノ中ニアル…神―
『つまりは貴方は"聖獣"だと言いたいんですね。てことはこの世にいる神の集合体か…』
―ソノ通リダ―
片言で話す、白く大きな狼のような…いや"聖獣"
『何が言いたい』
―オマエニハ、コレカラ全テ起キル事ヲ夢トシテ分ケテ見サセテイク。当タリ前ダガ、内容ハ誰ニモ話スナヨ―
『…出来事が起こる前に、未来を見させると』
―ソノ後、ドウ進ムノカハオ前ガ決メロ―
『言われなくとも、誰かに縛られて、誰かに決められた道を進む気は全くない』
―ソレデコソ…"異端ノ神"ダ…―
『お前は、こんな僕についてきますか?』
―アタリマエダ。オレハ、オレノ意思デオマエニツイタ―
『じゃ、これからもよろしくお願いします』
―アア―
そのまま聖獣は消えていった。彼が僕に伝えたかった事は、全て受け取ったつもりだ。
これからいろいろと苦難があるのだろう。彼は、僕の覚悟を聞きに来たのかもしれない。
『…もうすぐ、目が覚める』
あたりに白い靄が出てきた。リナリーの姿もかすんでいく
『僕はあきらめない。この世界を救う。絶対に』
レムの体を白い光が包み込む
『たとえ、"化物"と言われようと…』
レムの脳裏に、先ほどの村での出来事が蘇った…
「…、…、レム!」
『…アレン?』
いつの間にか汽車は発車しており、隣にはアレンが座っていた。向かい側にはクロウリーとラビが座っている。
「呼びかけても起きないから、心配しましたよ」
『…すみません』
「…レム、まだ怒ってるんさ?…でもあの変わりようはビックリしたさ。それにクロちゃんもそんなに落ち込むなって」
確かにクロウリーは落ち込んでいた。涙も流している。レムはガーゼがあてられている額に手をあてる。
「まだ痛むんですか?」
『いえ、もう大丈夫です…僕はあんなこと言われてもかまいませんが、仲間が言われるのは気に食いません』
それは数時間前にさかのぼる…
「アクマを退治していただと!?」
「そんなバカな話信じられるか!!」
村人からは、まるでこの世のものではない様な物を見るような目でみられる。
「どっちにしろワシらにとっちゃ化物だ。出て行け!二度とここには帰ってくるな!!」
城に入るまでは僕らを頼ってきていた村人が、今では化物扱いだ。態度が変わり過ぎている。
「化物!!」
「去れ!!」
「去れ!!」
「去れ!!」
「化物共!!」
アレンとラビはクロウリーの肩を叩いてここを出ようとしていた。しかしレムはそこを動こうとせず、そのまま立っている。
アレンとラビはレムが何をするのか分からず、少し進んだところから様子を見ていた。
そんなレムを見て何を思ったのか、その場にあった石などを投げ始めた。
フードをかぶっているため顔には当たらないが、体にビシビシ石が当たる。
「早く出て行け!!」
「お前らとはもうかかわりたくないんだよ!!」
「何でこんな化け物を"様"を付けて呼んでたんだろうなぁ!」
「さっさと出ていけぇ!!」
あたりかまわず叫び散らしながらレムに石を投げ続ける。と、レムが俯いていた顔を上げた。
その時、運悪く鋭くとがった石が額に当たり、皮膚を切った。
額から赤い血が流れ出し、顔に一筋の赤い線が出来る。
『…化物は、こんな赤い血を流すんでしょうかねぇ?』
レムが尋ねるも、誰も答える者はいない傷を労わるものもいない。アレンが血という言葉を聞いて向こう側から駆けてきた。
「レム!!額が切れてるじゃないですか!!…もう行きましょう」
『少し黙ってろアレン。僕はあいつらに言う事がある』
「!」
口が悪くなったレムに驚くアレン。ラビも同じく驚いている。そんな二人に目もくれず、レムは村人との距離を縮め始めた。