神ノ定メ 本
□第7夜
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そのころ、アジア支部にいるレムは、皆が寝静まったころ合いを見計らって封印の扉の前に立っていた。
「こんな夜遅くにどーした?レム」
『…フォー』
この頃は全く見かけなかったレムに声をかけたフォー。彼女には前とは違う何かを感じた。
「何か用か?」
『フォー、僕を、鍛えてくれないですか?これからの戦いに備えて…』
「何でだ?いきなり…それにお前は死んでいる事になってる。いきなり表に出ていったら騒ぎになるぞ?」
『大丈夫、バレる前に僕は死んじゃいますよ。…前にも言いましたよね?僕は特殊なんです。
だからこれからの事も全て分かる。分かっているのに何もしなかった。
ここの世界が壊れてしまいそうで、何もしなかったんです…』
"死ぬ"という発言にフォーはレムにつかみかかる。
「んだてめぇ、もう生きる事あきらめてんのか!?」
『いえ、できる事なら生きていたいです。が、僕の死は必要不可欠になるでしょう。もしここで死ななくても、いずれ僕は死に絶える』
「…どういう意味だ?話してみろ」
胸ぐらをつかんでいるフォーの手をやんわりと離し、その場に座る。…しゃべるしかないですか。
『フォーには話しますよ…でも、この事は他言無用です。いいですか?』
「ああ」
『僕は…』
全て話した。
僕が異世界から来て、その前の世界ではこの世界がマンガになっていた事。
僕が"ハート"と同等なイノセンス、"異端"であること。
そして僕は前の世界で「 」ており、いつの間にかここに来ていた事を…
「そうか…なんか悪かったな、無理やり言わせるようなことさせて」
『いえ、いずれ言う事になっていたはずです。もし僕が死んで、何で生きていたかと聞かれたら、あなたが今の事を言って下さい』
「…死なねぇと約束できんなら」
『それじゃあ頼む意味がないじゃないですか』
「…それが良いから言ってんだろ。そんで、イノセンスはもう大丈夫なんか?」
『はい、もう大丈夫です。怪我も大体治りましたし。お手合わせ、願います』
「ああ、行くぞ!」
静かだった空間に戦闘音が響いた。
そんな事が何日も続いていた、とある日。
「レム、お前、それ…」
『はい、これが、聖獣と光の銃と闇の剣の本当の姿…』
そこには、ちゃんとした開放が出来るようになったレムがいた。
体はまるで獣のよう。発動を解けば右手にはブレスレットのようなものが二つあった。始めてみる形態だ。
『毎日、つき合ってくれてありがとうございます』
「いや、いいってことよ。まあ、毎日ウォーカーに見つかんねえかとハラハラしたけどな」
『ですね』
二人で笑いあった。レムがここにきてから始めて見せた、本当の、心からの笑顔だった。
同時刻 東シナ海沖――
ミランダのイノセンスのおかげで元通りになっている船の上空に黒い影。
――アクマだ
レベル3。誰も戦った事が無いアクマだ。そのアクマは静かに船を見下ろした。