魔の預言者 本
□第四話
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しえみが蔵の中に部屋の中で燐、雪男、女将さんに見守られて寝ている中、海は外に出ていた。
『……この辺でいいか』
立ち止まったのは祓魔屋の後ろにあった林の中。
そこで海はブレスレットの中から三叉槍を出す。当然、海の体は青い炎で包まれる。
『(まずは、この星をとって…)』
雪男に買って来てもらっていた物を地面に並べる。その場に胡坐をかいて座りこむと、ブレスレットを外し、それについていた星を取り出す。
いつの間に帰って来ていたのか隣にはゼルが座っていた。
《何で聖銀に変えるのー?》
『こうしておけば悪魔に襲われてもこいつには触れられねーだろ?武器と使い魔を守るためだ』
《でもさー、使い魔は悪魔だよ?聖銀なんかに変えられちゃ困るんじゃないの?》
『大丈夫だ。そこらへんは調整してある』
聖銀に変え終えると、それをもう一度腕につけ直す。
《次は何すんのー?》
『次はちょっと特殊なのをつくんだよ』
地面に青色の両手の指無手袋を置き、その上に十字架を中心になるように置く。
『“溶”』
言葉を呟いた途端、十字架が溶け出し、銀の液体が手袋の上に広がる。ゼルはその光景にただ驚く。
《な、なんだこれ?》
『“浸”』
銀が手袋に均等に浸み込む。浸み込み終わると、それに聖水をかけた。
『終わった』
《なぁ海、今のなんだったんだ?》
『今のか?』
コクンと頷くゼルを見て、三叉槍をしまって炎をしまう。手袋をつけ、手を握ったり開いたりする。
『オレが異世界から来たのは知ってんよな?』
《うん》
『だからオレにはいろんな特殊能力が備わってる。あれはその中の一つ。言葉を操る』
《言葉?》
『そ、例えば…“浮”』
呟くとゼルの体が宙に浮かび上がった。
《うわぁ!すごい!!》
『そうか?まぁこんな感じで言葉が扱えるんだ。これに気付いたのは5年前。十字架と聖水を浸み込ませたのは、その方が悪魔に効くからだ』
《それってオレにも効くの!?》
『いや、オレが傷つけようとしない限り大丈夫だ。“落”』
《安心したぁ…》
ゆっくりと落ちていくゼル。地面に降りると、そのまま海の肩に乗った。
『もーそろそろしえみんトコ戻るか』
《いくー!》
ゼルを肩にのせたまま、蔵を目指して歩き始めた。きっと、今、しえみはあの夢の中にいる。
しえみが幼いころの、おばあちゃんの夢。
“天空の庭”の話をしてくれたり、草花の世話の仕方を教えてくれたり―
しえみにとって、何物にも代えられないものだったはずだ。
そんなおばあちゃんがいきなり死んでしまったのだ。
その理由は自分にあるとしえみは思っている。
葡萄(ブドウ)のつる棚に布をかけるのを断り、しえみは天空の庭探しに出かけた。
帰って来たら、全てが終わっていた。
葡萄のつる棚の下敷きになり、息絶えているおばあちゃん。
何度過去に戻りたいと後悔したことだろうか
葬式もすみ、全てが終わった日のこと。
庭に出て葡萄のつる棚に語りかける。
そこに聞こえて来た声。その声にしえみは答えてしまった。
それが、悪魔とも知らずに…
「一生一緒に守ろうね…」
それが、悪魔とかわした“約束”だった…