魔の預言者 本
□第四話
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「!!!」
夢から覚めたしえみは、思わず辺りを見回す。おばあちゃんがいる気がした。
「大丈夫か」
「!?……燐…」
「おい、お前の母ちゃん心配してんぞ」
「…な、何で、あなたにそんな事……ひどいのはお母さんだもん!」
感情にまかせて叫ぶしえみ。その声は蔵に向かっていた海にも聞こえるほどだった。
「私はこの庭を…おばあちゃんの庭を…守るって決めたんだから…!」
燐は俯くと、近くにあった鉢を刀を入れてある入れ物で殴った。鉢は割れ、中から土がこぼれる。
それ以外にも、花壇に植えてある植物を引き抜いたり、ちぎったりした。
「…な、何するの!?やめて!」
動かない足を引きずりながら、燐にしがみつき動きを止める。
「やめてよ!」
「お前は一体何に縛られてんだ!!」
「……わ、私は…だって…私がもっと早く帰れば、外へ行かずつる棚を手伝っていれば…おばあちゃんは死ななかった。
私のせいでおばあちゃんは死んだの!だから私は、おばあちゃんの庭を守る!!」
燐と同じ目。過去を後悔しただ自分を責め続けるだけ。
「だったら…母ちゃんに心配かけないでやれッ!それが出来ないなら辞めろ!!
…それに、お前が本当にやりてーのは、アマハラの庭を探す事だろ!!
それとも、お前のバアちゃんは、そーゆーお前に行くなって言うのか?」
「う、ううん、言わない、言わないよ…!う、うぅ、うわああああああ!私…バカだ…もう足が動かないよ…」
「こんな根っこ俺がぶった切ってやる!!!」
「……えーと、盛りあがってるところ申し訳ないんだけど、そんなザコあっという間に祓えますよ」
「うわァ、雪男!!何時の間に!!」
まるでドラマのワンシーンのような出来事の中に入っていく雪男は、相当な勇気の持ち主だ。
…オレなんか入っていく勇気さえなかった。それに何か胸がいてーぞ?病気か!?不整脈!?
「しえみさんの足は動きます。後は貴女の心の問題だったから」
「雪ちゃん…」
その時、タイミングを見計らったかのように声が響いた。
《約束を破る気…?》
「!」
しえみの頭に直接語りかけるような声。あのとき聞いた声だ。
《ゆるさない…》
「ひ!!?」
足がまるで植物の根のようになり、しえみの体を持ち上げる。
「き…きゃああぁ」
「しえみ!」
《あたし達は一生一緒…一生この庭で生きていくのよ…きゃはははははははは!!》
しえみの頭の周りに花びらが咲き、目が浮かび上がる。
「…完全に彼女を盾にとられた…兄さん」
「あい!?」
「少し手を貸してくれないか?…ちょ…?うわ、何その顔…!!」
まるで待ってましたと言わんばかりの顔。すぐさま鞘から刀を引き抜くと、悪魔化する。
「へっへっへ〜、しょ〜がねぇ弟だなぁ?この俺が手を貸してやらんこともない…!」
「やれやれ。とにかく兄さんは僕のすることは一切気にせず、アイツの相手をしてくれ!」
「わかった!」
《!あんた同族(あくま)!?》
走り出す燐に、悪魔はしえみを盾にとり自身の身を保護する。
「…こうなったら彼女ごと撃つしかない」
「はっ!?」
《きゃは、キャハハハハッ!ハッタリね!あたし達騙されないわ!》
「そう、思うか?そうかもしれないな?さて、どっちでしょう?」
銃を構える雪男。その前に、一つの影が割って入った。
『ここはオレに任せてもらおーか?せんせ?』
「! 海っ」
『せんせーはそこで見てろよ。燐もオレが良いって言うまで手ぇ出すなよ』
そういい悪魔に近づいていく海。手に武器は一切握られていない。
《な、なにする気なのよっ!》
『…さっき、“可愛いあたし達”とか言ってたけど、あんたは全然可愛くねーよ』
《なっ!》
「海!!何挑発するようなことを…!」
悪魔を挑発するような言葉を言う。それにまんまと乗った悪魔は、海に攻撃を仕掛ける。それを避けず、正面からうける海。
「海!!」
『くんな!!』
脇腹からは血が流れ出ている。これはわざとだった。悪魔に程よい優越感を抱かせるためだ。
《きゃはは!アンタ、すんごく弱いんじゃなーい?》
『さぁ、どーだろうな?“静”』
指を差し、言葉を発した途端、悪魔は全く声を出さなくなる。雪男と燐はその様子をただおかしそうに見守るだけだ。
『“止”』
更には動かなくなった悪魔。ニヤリ…と口角をあげる海。
『“離”“暗”』
いきなりしえみと悪魔の体が離れた。
『燐、今だ!』
「意味分かんねーけどォおっ!」
クリカラを振りかざし、悪魔を斬った。しえみには“暗”という、目の前を暗くする言葉をかけてあるので、目の前が暗くなっているはずだ。
『燐、刀しまえよ』
燐の悪魔化が解けたのを確認した後、暗を解く。しえみは呆然としていたが、血が出ている海を見た途端、駆け寄ってきた。
「海!!どうしたのその傷!!」
『ああ…ちょっとな』
「海!!!何であんな危険なことしたんだよ!」
『燐!声がでけーよ!』
燐を草陰に連れていき、その場に座る。隠れる前に後ろを振り返ると、しえみと女将さんが対峙していたのが見えた。
あのシーンが見れないのは惜しいが…今はこの燐を鎮めるのが優先される。
「……で、何であんなことしたんだよ」
『…あの悪魔に程よい優越感を抱かせるためだ』
「でも、やり方は他にもあるだろ!」
両肩を掴まれて揺さぶられる。…返す言葉がなかった。
「…なにも言わねーのかよ。おめーは自分の命をなんだと思ってんだ!」
『…っ!燐に…燐には言われたくねーよ!』
手を振り払い、燐を睨みつける。燐の顔は、本気で心配し、怒っていた。
「…そうかよっ!じゃあいい!」
燐はその場から去っていった。その背中を海は後悔と虚しさ。ほんの少しに縮んだ怒りで見つめた。