魔の預言者 本

□第四話
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漸く橋の端に着き、用品店が目の前にそびえ建つ。思ったより結構大きい。



「じゃあ先に買い物してくるから、兄さんと海は少し外で待っててね」


「俺は入れねーのか?」


「店にはエクソシスト以上しか入れない。すぐ終わるから」


『あ、雪男。これ買って来てくんねーか?金は後で渡すから』



階段を上ろうとしていた雪男を呼び止め、メモ用紙を渡す。雪男はそれを開き、内容を読む。



「…コレ、何に使うの?」


『うん、いろいろな』



メモには

“聖鉄の鎖”

“十字架”

“聖水”

“聖水をかけた布手袋”

と書かれていた。



「聖水の濃度はどれくらい?」


『んーん…一番低いヤツでいいや。あまり高すぎるとオレが死んじまう』


「………そうだね。布手袋はどんなの?」


『とにかく丈夫なヤツ』


「解った」



雪男はメモをポケットにしまうと、階段を上り始める。だが、なぜか途中で止まり振り返る。



「勝手にウロチョロしない、触らない!」


「解ったから行けよ!………チッ、雪男の奴完全にこの俺をガキ扱いしやがって…!」


『ガキだから言ってんじゃねーの?』


「海まで…

“ウロチョロしない!”“なにマンガ読んでるの!”

ペッ、お母さんかっつーんだよ!くっそー。いつか“頼むよ兄さん”とか言わせてやる…!」



あまり似ていないモノマネに、噴き出すのを必死に抑える。



『無理じゃん?』


「無理とか言うな!…ん?」


『(やっと見つけたな…あー、アイツに会うの久しぶりだなー。…何年ぶりだ?)』



階段を上る燐を止めようともせず、逆についていく海。雪男には断ったしな。

“期待された働きが出来るかは保証できない”

って。



「うおーすげーキレー」



確かにそこの庭はとても綺麗だった。色とりどりの花々が美しく咲き誇っている。



『(お、いた)』



庭の奥の方に一人の少女。ここの庭の現在の主、杜山しえみだ。燐も見つけたようだ。見惚れているのか、視線を外そうとしない。



『(…?)』



海は胸がチクッとするのを感じた。今まで感じた事もない、ワケの分からない痛みだった。



『(あー意味分かんねー…)』





バキンッ





「い、って!?」


『あ…(ヤッベ、忘れてた…)』



物思いにふけっていて、燐が門に手を伸ばしている事に気付かなかった。当然、魔除けの門は燐に反応する。



「え!!!!?」



ぐらり…と門は傾き、片方の扉が壊れた。その音にしえみは振り返る。



「あ、ああ、いや、俺は何も…勝手に…」


「あ…悪魔…!」


「え…っ(なんで?)」



正体がばれたのかと焦る燐。尻尾は上手く隠してあるし、ヘマはしていないはずだ。
後ろにいるはずの海に助けを求めようとするが、格好がつかないと思い後ろは振り向かない。
あれだ、好きな子の前では格好良くいたいというヤツだ。



「ち…ちげーよ!」


「魔除けの門が…!悪魔にしか反応しないのに…」



ようやく悪魔と言われた理由が分かったようだ。海は燐の後ろにいるため、しえみからは見えていない。



「ど、どうか見逃して……入ってこないで」


『(あ、絶対今カチンときたろーな)』


「俺は悪魔じゃねぇ!人間でもないけど……勝手に決め付けんな!!」


『(うわー逆効果…大人しくしとけよ)』



当然、極度の人見知りしえみは、突然怒鳴られ、しかも悪魔かもしれない燐に怯え逃げだす。…地面を這って。



「こないで―――!!誰か…!!たすけ…きゃあっ」


『あーもう見てらんねー。しえみ!着物汚れんだろーが!止まれ!!』





ピタッ





指示通り止まるしえみ。何で指示を聞いたかは分からない。海は燐の横から出ていき、しえみに近づく。
律儀に後ろも振り返らないしえみの前に出て、同じ目線になるようにしゃがんだ。



「やっぱり…海ちゃんだ!わー久しぶりに会うなぁ…何年振りだろ!」


『さぁな、忘れた。ってか、いいからその場に座れ。早く』


「相変わらず男っぽい口調のまんまなんだね…」


『うっせ。黙れ』



言葉は荒いが、気持はこもっている海の口調。しえみはそんな彼女が好きだった。



「(何だ…?あいつら知り合いなのか?)」


『あ、燐。門戻して』


「お、おぉ」



完全に輪に入りそびれた燐は、海の指示に従うしかなかった。




  
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