魔の預言者 本
□第五話
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燐、雪男、しえみは場所を移動し、塾内にある広場に来ていた。
いつもなら海もいるのだが、燐とケンカ紛いを起こしてから、いつの間にか休み時間には姿を消すようになった。
「…あいつ、なんなんだ?頭いいのか?」
「秀才だよ。僕と同じで奨学金で入ってきてるしね。勝呂竜士くん。京都の由緒あるお寺の跡継ぎだって聞いたけど…
成績優秀で身体能力も高く、授業態度もマジメ。少なくとも兄さんよりは努力家だ。
いっそ兄さんは彼の体中の垢を煎じて飲んだ方がいい」
その言葉に何も言えない燐。その頭上高くには、一匹の鴉が飛んでいた。
「そんな事よりしえみさん、塾には慣れましたか?」
「え、あ…ま…まだ全然…」
「昔のしえみさんを知っている僕から見たら、今のしえみさんは見違えるみたいだ。…焦らず、頑張ってください」
「うん!ありがとう雪ちゃん…」
雪男は立ち上がる。
「じゃあ僕は次の授業があるから、ここで。二人とも次の体育実技の授業遅れないようにね」
もう一人の先生と合流し、雪男は去っていった。
自然と無言になる。
「燐…」
思いつめたような表情のしえみ。
「私が塾にいるのって、やっぱりおかしいよね」
「?……あー。お前、祓魔師目指してるワケじゃないんだもんな。まーいーんじゃねーの?いろんな奴がいたって…」
「………燐、お友達、いる?」
「はあ?」
どうやらこっちが本題のようだ。いきなり顔を近づけてくるしえみに、思わず後ずさりする。
「あ、あのね!り…燐…私と…」
「えっ!?」
これは…俗に言う…あの…
「お――お――お――イチャコラ、イチャコラ!」
そんな中、竜士達三人組がやってきた。誰が見てもあの光景としか言いようのない二人の様子を見てからかう。
「だっだだだだだだ、誰がだゴルアァ!!」
思わず恥ずかしくなり、物凄い速さで竜士達の方に向き直る。
「プクク、なんやその子。お前の女か?それに如月ゆー女もおったよな?世界有数の祓魔塾に女連れとは、よゆーですな〜?」
「だから、そーゆーんじゃねーって。関係ねーんだよ!!」
「じゃあなんや。お友達か?え?」
ニヤニヤとこれまた嫌な笑いでこっちを見てくる竜士に、思わず言いきってしまった。
「……こいつらとは、と…友達……じゃ………ねぇ!」
「!!」
《!!》
しゅん…とするしえみをよそに、男達の抗争は続く。
「はあ〜〜〜ハハ…あ――なるほどなあ」
「〜〜〜〜くっそ…テメーだって…!いっつも取り巻き連れやがって!!身内ばっかで固まってんな!カッコ悪ィーんだよ!!」
燐の言うことも一理ある。取り巻きの一人がとうとう耐えきれなくなり噴き出す。
「ブフォ!?」
「!?笑うな!!」
「いやぁ〜そうやなぁ思て…!」
「なに納得してんのや」
まるで虎(燐)と龍(竜士)が睨み合うような光景がそこにあった。
『おい、しえみ。体育始まるぞ。着替えねーと』
そこにやってきたのは、今までラウムを通して様子を見ていた海。しえみの手を掴むと、そのままその場から立ち去ろうとする。
「あ、おい!海…!言いてぇ事が…」
『何か用か?奥村』
こっちを振り返った目は冷たかった。今までこんな目で見られた事がなく、名字で呼ばれた事のない燐にとって、その場で固まるほかない。
(海は初対面の人でもかまわず呼び捨て)
『友達でも何でもないんだろ?今までの付き合いが、何の意味もなさねーってことが良く分かった』
「そ、そーゆー意味で言ったんじゃ…」
『挙句の果てにしえみまで傷つけやがって。それにそっちの鶏頭!』
「に、鶏頭やて!?」
「返事したってことは自覚してんのやな」
「う、うるせェ!」
『テメェもそんなに人をあざ笑って楽しいか?祓魔師になるんなら、チームワークは大切だ。
そんぐれぇ解るだろ。テメェはいちいち授業で習わねーと分かんねーのか?鶏』
何だか今日は言葉がスラスラ出てきていた。何だかいつもより言葉使いが荒いような気もする。
ま、今まで積りに積った鬱憤を晴らせているのでよしとしよう。
『いくぞしえみ』
「あ、うん」
その場から居なくなった海としえみ。後には、さんざん言われまくった二人と、それを見ていた取り巻きしかいなかった。