魔の預言者 本
□第五話
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〜体育実技〜
「うおォおおおお」
「ぬウぐおおおお!!!」
体育実技では、悪魔から逃げる体力作り兼逃げ方を学ぶ授業だった。
「おせーおせー。キヒヒ!アタマばっか良くても、実戦じゃ役にたたねーんだよ!」
「…クッ(コイツ、マジで速いわ…!)」
まるで運動会の終わりのない徒競争のようだ。対決が幼稚すぎる。
「何あれ」
「さあ」
「ハハ…坊も結構早いのにやるなあ、あの子」
『バカみてーなことしてんじゃねーよ』
観覧席の淵に腰掛け、二人を見下ろす。
「実戦やったら、勝ったもん勝ちやぁああ!!」
「でぇーッ!」
蹴り飛ばされた燐。蹴り飛ばした本人は反動で悪魔の前に出てしまう。
ゲボォオオオ!!!
「コラァ――――ッ」
すかさず先生がレバーを引き、悪魔を竜士から遠ざける。
「何やってんだキミタチはァ!死ぬ気かネ!この訓練は徒競争じゃない。悪魔の動きに体を慣らす訓練だと言ったでショウ!」
先生が怒鳴る間も無視、二人のケンカは続き、ついには取っ組み合いのケンカとなる。
「何なんだねキミタチは!」
「すんません」
先生と志摩の二人がかりで燐と竜士を引き剥がす。
「勝呂クン!こっちに来てくれタマエ」
「?、はあ」
竜士は先生に呼ばれ、燐と志摩から離れる。
「なんでアイツだけ?」
「…………さあ」
「つーか、何なんだアイツ…」
「かんにんなぁ」
志摩は笑う。どこが面白いのか分からない。
「坊はああ見えて、クソ真面目すぎて融通きかんとこあってなぁ。ごっつい野望持って入学しはったから…」
「ほんと、この塾ってバカな連中が多いわよね!そう思わない?朴」
「そ、そうかなぁ?」
ふと聞こえてきた会話は声からして出雲だ。少し耳を済ませておきながら、燐と廉造からは視線を外さない。
「あそこでフード被ってゲームばっかやってる奴もいるし、腹話術でしかしゃべらない奴もいるし、バカはいるし、煩いのもいるし…」
「ハハハ…」
「今、私の中ではあの紫の奴が一番わけわからないわ!先の事を見通してるよな行動するし…」
『Σ!!』
驚いた。出雲にそんな観察力があったなんて。この話には加わろうか?
『それってオレの悪口に入るのか?』
「なっ!?聞いてたの!?」
『オレは“紫の奴”じゃなくて、如月海ってんだよ』
二人の後ろに立ち、話に割って入る。二人…特に出雲は驚いたようで、バッと後ろを振り向く。
『ん?なんだ二人して』
「あ、あんたお、女!?」
『そーだけど… もしかして、オレの事男だと思ってたか?』
「そりゃそーよ!“オレ”って言ってるし、制服は男物だし!!」
『んなムキになんなくても…』
ムリヤリ二人の間に割り込む。それほど嫌な顔もしなかったし、いいのだろう。
『ワケ分かんねーって言うのなら、改めて自己紹介するぞ。オレの名前は如月海。年齢は15歳。性別は女。以上』
「基本情報少ないわね!」
『他は質問制だ。何かあるか?』
「じゃ、じゃあ!…何で男の制服を着てるの?」
『ん?あ、ああ…こっちのが動きやすいからだな。メフィストには女もんの制服着ろって言われっけどな』
竜士と燐が上がってきた。相変わらず視線だけは外さない。
「海ちゃんならきっと似合うと思うんだけどなぁ〜」
『そっか?ありがとな!朔子』
「何呼び捨てにしてんのよ!」
『悪いのか?出雲、朔子』
「わ、私まで…!////」
なぜか顔を赤くしている出雲。海は訳が分からず、首をかしげるだけだ。
「私はいいよ!」
『おう!出雲は?』
「ベ、べつに許してやらないことも…///」
『じゃ、公認だな』
ニカッと笑う。…どうせ表面上の笑いだ。本当の笑いはとうの昔に忘れたのだから…
「そういえば、海ちゃんの隣にいつもいるその猫又の名前はなんて言うの?」
『ゼルだ』
「格好いいねぇ!」
格好いいと言われて、ゼルも嬉しそうだ。朔子の方の上に乗り、嬉しそうに頬にすり寄る。
出雲がうらやましそうに見ていたので、ゼルに心で語りかける。
『(ゼル、出雲にも行ってやれ。何を言われても怒ったり降りたり咬んだりすんなよ)』
《? うん》
「きゃあっ!?」
ゼルは指示通りに出雲の肩に飛び乗り、すり寄る。
「な、なによ!邪魔よ!どいて!」
『そう言ってる割には嬉しそうだな?』
「Σ」
図星を突かれたようで、顔を赤くしていく出雲。
うん、このほうが可愛いな。
「な、なに一人でニヤニヤしてんのよ!」
『ん?べつに』
ゼルも戻ってきたので、その場から離れた。向こうではいまだに竜士と燐のケンカは続いていた。
「授業再開するゾ〜!」
ブ―――ッブ―――ッ
携帯のバイブ音が響く。どうやら先生の携帯らしい。
「何かネ?ハニー……なんだって?仕方がない子猫ちゃんダ!」
携帯を切ると、こちらに向き直った。
「注ゥ目ゥ―――しばらく休憩にする」
「………え?」
「いま子猫ちゃんいうてはった」
「いいかネ!基本的に蝦蟇(リーパー)は大人しい悪魔だが、人の心を読んで襲いかかる面倒な悪魔ナノダ!
私が戻ってくるまで競技場には降りず、蛾蟇の鎖が届く範囲には決して入らないこと!いいネ!
わかったら以上!今行くヨ!子猫ちゃ〜ん!!」
『あんなキモイ教師に寄りつく女がいるんだな』
「何気にひどいんやなぁ海ちゃんは」
『お前はそう思わねーのか?廉造』
「おっ、名前呼び?」
『嫌か?』
「別にええよ〜 海ちゃんみたいなべっぴんさんに言われんのやら本望やわ〜」
燐と竜士が言いあうなか、いつの間にか廉造と海は打ち解けていた。