魔の預言者 本
□第五話
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〜夜〜
廉造とも和解した燐は、一つの部屋の前に立っていた。海の部屋だ。
「(あ、謝んねーとな…あの時のことも、今日のことも…)」
コンコンッ
ノックをするも返事がない。寝ているのかと思いそっとドアを開けるも…
「いねェし」
そこは蛻の殻だった。制服はかけてあるため、一度帰ってきていることは確実だ。
「どこにいるんだ…?」
《誰?》
「おわっ!?」
いきなり声がした。声のした方を向くも暗くてよく見えない。
《あ、燐だ!》
お腹のあたりに飛びついてくる感覚。抱きとめればそこにいたのは海の使い魔であるゼルだった。
「確かお前は海といつも一緒にいる…」
《猫又(ケットシー)のゼルだよ!…というか名前教えてもらってたよね?海から》
「お〜そうそう。でさ、お前、海しらねーか?」
《海?ああ、きっとあの場所にいるよ!》
「あの場所?どこだ?」
《ここの屋上だよ!きっとそこだ!》
「おう!あんがとな!」
ゼルをはがして頭を撫でると、ドアを閉めて屋上へ向かった。
〜屋上〜
『(う"〜訳わかんねぇ)』
海は屋上(っていうか屋根の上)で胡坐をかいていた。傍らには三叉槍が置いてある。つまり悪魔になっているのだ。
『(オレの正体がバレてた事もそうだけど…燐のこともなぁ…)』
周りには魍魎(コールタール)が飛びまわっている。みな口々に「魔の預言者様」や「姫様」などと言っている。
『うるせェよ!』
手から青い炎を微量に出し、魍魎を焼き払った。
遠くでみていた魍魎と小鬼達はそれを見て逃げていった。
『…ボティス』
《何だ?呼んだか》
『お前、何か視たか?』
《いや、まだ何も視とらん。我の夢にこの頃出てくるモノは何もない…すまないな》
『いや、気に病む事は無い』
頭を下げるボティスを撫でる。気持ちよさそうに舌を出し入れする。
『…何かあったらすぐに言えよ』
《うむ、承知した》
煙をあげてボティスは消えていった。後には静かな夜の静寂が広まる。
『さて、帰っか』
重い腰をあげ、部屋に帰ろうとした時だった。
「…待てよっ!」
後ろから飛び出してきたのは燐だった。
『…何か用か?“奥村”』
「…っ!あの、言いたい事があってよ…その、悪かった」
『…何がだ?(相変わらず主語がねぇ)』
知らんフリして横を通り過ぎようとする。その手を燐に強くつかまれた。昔は振り払えたこの手も、今は振り払えなくなっていた。
『…離せ』
「嫌だ。ってか、無視すんな。俺は謝りに来たんだ」
『謝るんならしえみに謝れ。お前に“友達じゃない”って言われて、一番傷ついたのはしえみだ』
「そ、それは…そのうち謝る」
『オレは放っておいてもいいが、しえみにはすぐ行け。今ならまだ起きているはずだ』
「放ってなんかおけるかよ!!」
いきなり怒鳴られて、思わず肩が上がった。燐は小さく「すまねぇ…」と言うと、手を離した。
「なんて言うか…俺にとってはしえみも大切なんだけど…それ以上に海の方が気になるというか優先したいっていうか…その、だな…」
『…つまり、なんだ?』
「と、とりあえず…すまなかった。前のことも、今回のことも」
あの燐が頭を下げた。海は頭を下げ続ける燐に近づき、頭に手を置いた。
『もう、気にしてねぇよ。頭上げろ』
「…手、どかしてくんねぇと上げらんねェんだけど」
『悪ぃ』
手をどかして燐に笑いかけた。どうせ、表面上の笑顔だし、幾らでも作るとこはできる。
「…なぁ」
『ん?』
「お前、その笑顔どうにかなんねーのか?」
『Σ、何の事だ?』
「お前、心から笑った事ねーだろ。いっつもムリヤリ顔に張り付けるような笑顔しかださねぇ」
眉間に人差し指を置かれる。そのままデコピン。
『っで!』
「いつか、本当の笑顔がだせるといーな!」
『…ん』
まさか、ばれてるとは思わなかった。強ち燐も侮れないかもな。
屋根の上ではしゃぐ燐を見て、一人思った。
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燐と主人公、結構くっついてきましたねー
燐が意味ありな発言したのに、それに気づかない主人公…
鈍感にもほどがある!