魔の預言者 本
□第六話
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「如月海。事情は聞いている。早く魔法円の周りに来い」
教室に入り、ネイガウスの指示に従い燐の隣に行く。
「ほらよ」
『ありがと』
燐から魔法円を省略したものが書かれた紙を渡された。
「これから悪魔を召喚する。図を踏むな、魔法円が破綻すると効果は無効になる。そして召喚には己の血と適切な呼びかけが必要だ」
包帯が巻かれている右手を出し、魔法円に血を垂らす。
「"テュポエウスとエキドナの息子よ、求めに応じ、出でよ"」
魔法円からは気味悪い悪魔が現れる。こんなのを使い魔なんかにしたくは絶対ない。
「悪魔を召喚し、使い魔にすることが出来る人間は非常に少ない。悪魔を飼い慣らす強靭な精神力もそうだが、天性の才能が不可欠だからな」
「け…げぇッ…!」
「あれ、屍番犬(ナベリウス)か…は…初めて見たわ…」
『くせぇ…(オレの使い魔、普通でよかった…)』
鼻を押さえて少し後ずさる。こんな異臭嗅いでたら嗅覚がおかしくなりそうだ。
「今からお前達にその才能があるかテストする。先程配ったこの魔法円の略図を施した紙に自分の血を垂らして、思い付く言葉を唱えてみろ」
思い付く言葉と言われてもなぁ… 紙をピラピラと振ってみる。それで悪魔が出てくるわけでもない。
「"稲荷神に恐み恐み白す(かしこみかしこみもうす)。為す所の願いとして、成就せずという事なし!!"」
ポンッ、という音を立てて出雲の持つ紙から二体の白狐が出現する。
「うおお!何だアレ、スゲー!」
「白狐を2体も… 見事だ、神木出雲」
出雲は褒められて得意そうだ。白狐にもその気持ちが伝わっているのか、嬉しそうに周りをグルグル飛び回る。
『ってか、巫女の血統だったんだ』
「そうよ」
フンッと胸を張る出雲。白狐の元に近づき頭をなでる。
「うわああ!わ…私も!おいでおいで〜なんちゃって……」
しえみも紙に血を垂らして呼びかける。なにも出てこないだろうと思っていたのだが、煙が上がり、緑色の悪魔が出てきた。
《ニー》
「それは緑男(グリーンマン)の幼生だな。素晴らしいぞ、杜山しえみ」
出雲は悔しがり、しえみは喜ぶ。緑男は幼生のためまだ小さいが、そのうち大きくなって中級ぐらいの悪魔にはなるだろう。
「こ…こんにち、あ、うわああ。えへへ…!(はっ、そうだ!!)」
しえみは出雲に向き直る。出雲に話しかけるチャンスなのだろう、か…?
「ねえ、神木さん…わ、わわ、私も使い魔出せたよ!」
「…へぇ〜スッゴーイ。ビックリするぐらい小っさくて、マメツブみたいでカワイ〜!」
どう聞いても、ただの皮肉だ。自慢されたのが気にくわなかったのだろう。
「あ、ありがと!」
しえみは皮肉と感じてるわけではないようだ。逆に褒め言葉として感じ取っている様子。海はため息を吐いて、手元の紙を見た。
『(オレもやろっかなー。でも、紙で呼び出すとこれに移すの面倒なんだよな…)』
《えー、やらないの?海》
『(面倒なんだってば)』
手首にかかるブレスレットを見る。ブレスレットに移すのには時間がかかるわけではない。ただ彼女自身、移す作業が面倒に感じているだけ。
「如月海。お前もやれ」
『!? な、何でオレは強制なんだよ!ふざけてんのかテメ…モガっ!!』
「フー危ない危ない。俺が押えんかったらどうなってたか」
『うるせェ。ネイガウス嫌いなんだよ。眼つきとか』
何故か隣にいた廉造に口をふさがれた。…なぜか燐からの視線が痛い。
「聞いたところによるとお前はもう使い魔をかなり所持していると聞いた。それほどの実力者なら上級悪魔を呼び出せるだろう」
『(メフィストの奴が告げ口しやがったな…)』
ここで逆らうと後が怖いので、両手に血を垂らした魔法円が書かれた紙を持ち、目を閉じる。
『"オレの下につき従う全ての悪魔よ、オレの呼びかけに答え、今姿を示せ"』
ボウッ
「おわっ!?」
「きゃあっ!」
紙から大きな煙がたち目の前に二つの影が降り立つ。煙が晴れると、そこにいたのはユニコーンと狼にグリフォンの翼、蛇の尾が着いた悪魔2匹。
「…アムドゥスキアスとマルコシアスか…上級悪魔に違いないな。他の悪魔も全て出してみろ」
『はぁ!?お前マジでふざけて…モガガガッ!!…廉造…テメェふざけてんのか?』
またもや口を両手でふさがれる。仏の顔は3度と言うが、オレは仏みてェに3回は待たない。
「お、俺は海ちゃんのためを思ってやってるんよ!」
『チッ。今回だけだかんな。…ボティス、フラウロス、ラウム』
呼べば出てくる悪魔達。フラウロスがなぜかネイガウスに向かって唸った。
《何の用だ?見た所敵がいるようでもないが…》
『面倒な事になってよ…ま、お前らは何もしなくていい。そこで立ってりゃいーんだよ』
そう説明すると、その場で大人しくなる使い魔達。…フラウロスを覗いて。
「めっちゃおるな〜。なんか一体めっちゃ唸っとるけど」
「やはり期待通りだな。如月海」
『そりゃどーも』
ぶっきらぼうに返す。燐が近づいてきていつの間に仲間にしたんだとかと詰めてくるが、適当にあしらっておく。
「今年は手騎士(テイマー)候補が豊作なようだな。悪魔を操って戦う手騎士は祓魔師の中でも数が少なく貴重な存在だ。
まず、悪魔は自分より弱い者には絶対に従わない。特に自信をなくした者には逆に襲いかかる。
さっきも言ったが使い魔は魔法円が破綻すれば任を解かれ消えるので…もし危険を感じたら“紙”で呼んだ場合、紙を破くといいだろう」
ネイガウスも足で魔法円の一部を消し、屍番犬を戻す。そこで授業は終わった。早々にネイガウスは教室を出ていく。
「私、あなたを消したくないな…ニーちゃんって呼んでいい?」
《ニー》
『…さて、ネイガウスもいなくなったし早速始めっか』
床に座り込むと、先ほど呼び出したアムドゥスキアスとマルコシアスを前に呼ぶ。
「何すんだ?」
燐がやって来て同じく隣に座りこむ。
『魔法印を紙からこれに移すんだよ』
ブレスレットを腕から外して床に置く。
『お前らは、オレの使い魔になる気があるか?』
《なかったらこねーよ》
《貴方様の使い魔になるために、私達は現れたのです》
『なら決定だ。おまえらはこれからオレが死ぬまでの主従関係を結ぶ』
ブレスレットについている星が二つ光り、そこに2匹は吸い込まれていった。
「す、吸い込まれた…」
『これで魔法印ナシで呼び出せんだ。紙はもうカンケーねーから、破いて棄てる…てか燃やす』
四つに破くと、それをフラウロスの前に放って燃やさせた。