魔の預言者 本
□第六話
5ページ/6ページ
「朴!!」
お風呂場では、突如現れた屍番犬によって朴が魔障を受けてしまった。魔障を受けた部分は皮膚がただれ、火傷のようになっている。
「(屍系の悪魔…!あの魔障はすぐに手当てしないと…)」
しかし屍番犬は朴の上からどこうとしない。出雲はカバンの中に忍ばせておいた魔法円の書かれた紙を取り出す。
「"稲荷神に恐み恐み白す…!為す所の願いとして、成就せずという事なし"」
二体の白狐が現れる。その時、出雲の脳裏に先ほと朴に言われた言葉が蘇る。
「あたしが」
「ううん。そんなのおかしいよ。私は好きじゃない…!」
「……………あ」
動揺してしまった。その途端、使い魔の様子が豹変する。
《……汝め……何だその心の有り様は。汝は我らに不担しくない…!》
襲いかかってくる白狐。その牙が自分に届く前に二匹は視界から消えた。…いや、地面に倒れ伏していた。
『あっぶねー…ギリセーフ(てか、なんか4体いるんだけど)』
巨大化したゼルを横に携えた海が後ろにいた。
「海…!」
『早く紙破け!ゼルは雪男を呼びに行け!!』
その言葉にはっとしたように出雲は素早く紙を破いた。途端二体の白狐は消滅する。
『さて、オレの友人を傷つけた責任… 死をもって償ってもらおう』
出雲の前で悪魔になるわけにもいかない。どうしたものか。
『アムドゥスキアス!』
《お呼びですか、海様》
『朔子を屍番犬から遠ざけろ。それが終わったらオレの援護… いや、出雲の傍にいろ』
《ですが…》
『オレの指示に従えねーのか』
《…分かりました》
渋々と言った様子で頷いたアムドゥスキアスを見ると、そのまま屍番犬に向かっていった。
《ナ ゼ デ ス カ ヨ ゲ ン シャ サ マ》
『なぜって、なんだってんだよっ“雷剣”』
その手に電流をまとった剣が握られる。ダメもとで適当に武器の名を呟いてみたのだが、やってみるモノだ。
『その名で呼ぶなってんだよ!』
剣を振り下ろすが簡単に避けられてしまう。そのまま1体の屍番犬に頭を掴まれ、浴室に向かって投げられる。
「大丈夫か!…て、海!?」
『おせーぞ… 燐』
原作よりもかなり遅れて登場した燐。海の姿を見た途端、その眼が驚愕に見開かれた。
「テメェ、海を離しやがれ!!」
『バカ!くんな!!』
刀の入った袋で屍番犬を殴る。しかしそんなものが通用するはずがなかった。
「ガッ」
燐までもが浴室の中に投げ入れられた。浴室の中に2体の屍番犬がいる。残りは外で浴室を守るように立っている。
『は、離せよ…!』
《海様…!この…離せ!!》
アムドゥスキアスが床から植物の根を出し、2体の屍番犬を倒す。しかし、まだ2体の屍番犬が浴室の中に残っている。
海の命令のせいでその場から離れることが出来ない。
『こ、やろォ…ふざけてん、じゃ…ねーぞぉ!!“苦”“痛”“裂”!』
痛みのオンパレードになるように言葉を紡ぐ。屍番犬はその言葉をもろに浴びた。
海を掴んでいた手を離し、その場に蹲ったまま唸り始めた。
《ナ ゼ デ ス カ》
『虚無界(ゲヘナ)に行く気なんか更々ねーんだよ。消えやがれ』
グモォオオオオ!
叫び声をあげて一体は倒れた。浴室から脱衣所を見ると、いつの間にか来ていたしえみが朔子の治療を終えたところだった。
「兄さん!」
タイミングがいいのか悪いのか、やっとやってきた雪男が燐をつかんでいた屍番犬に銃を発砲する。傍にはゼルもいた。
《海!その怪我、どうしたの?》
『いろいろあって。それより朔子は大丈夫なのか?』
「しえみさんの的確な処置のおかげで無事だよ。しえみさんがいなかったらどうなっていたか…」
「杜山、さん…ありが、と」
にっこりと笑う朔子に、しえみも笑ってい返した。その様子を(生でみてみたかったため)見おさめると、棚の陰に隠れているはずである出雲の元へと歩み寄った。
なぜか燐までもついてきたが、原作では燐がいたのだからまあいいだろう。
『出雲』
「悔しい。こんな姿…誰にも見せられない」
『今、オレらが見てるけどな。ま、ほらよ。これ着てろ』
この時のためにと着ていた大きめの上着を肩にかける。燐が上半身裸になるのは、ちょっとした危険があるので、予め着ておいたのだ。
『“たった一人の友達”とか思ってるんだろーけどよ、じゃあ今お前の周りにいるオレ達はなんだ?ただのクラスメイト、いや、人間か?』
「それは…」
『オレは出雲の事が好きだし、友達だと思ってた。…まぁ、オレは人の心を考えられない様な人間はクズだと思ってるけどな。
だけど、今の出雲ならまだ引き返せる。よく考えて、いい方の路(ミチ)を選ぶんだな』
アムドゥスキアスを戻し、ゼルに小さくなってもらって脱衣所から出ていった。