魔の預言者 本

□第八話
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〜旧男子寮 燐・雪男自室〜





コッコッコッ





気持ちよさそうに寝ている燐の横に、暗闇に紛れるようにして歩いて来る一人の男。…ネイガウス。





スゥッ





腰から魔法円を描く時に使うコンパスを取り出し、その針の部分を寝ている燐の上に翳す。そして…





ドッ





「…うッ」



ひと思いに刺した。………が





ジャキッ





「殺すつもりはないんじゃなかったんですか、ネイガウス先生」


『マークしといて正解だったろ?』


「…見事だ。奥村雪男、如月海」


『お前に褒められたって気味わりぃだけだっての』



雪男は銃を、海は三叉槍を変化させた刀を突き付けていた。
ネイガウスのコンパスが突き刺さったのは布団を丸めただけのものだった。










「しえみ!?何でこんなとこに…!!え、まさか夜這い…」


「しいっ!全然起きないから…雪ちゃんと海ちゃんが別の部屋に運んだの!二人はそのままにしとけって言ってたけど…。
それに海ちゃん、猫叉(ケットシー)置いてったし… 何が起こってるのか…」





ドンッドンッ





上の階から聞こえてくるのは銃声。何が起こっているのか、二人には想像もつかなかった。










「出でよ!!」



ネイガウスが唱え、腕から出てくるのは大量の手“だけ”。



『うわァ… 気持ちワリィ…』


「戦ってよ!」


『分かってるんだけど…』



屋上へと駆け昇っていくネイガウスを追い、雪男と海は追いかけていた。しかし、そこはやはり祓魔師と言うべきだろうか。
奴は使い魔を出しまくり邪魔をしてくる。そのたびに全て焼き払ったり撃ちおとしたりして応戦している。





バンッ





とうとう屋上に辿り着いた。もう両者とも逃げ場はない。



「…先生、なぜ兄を殺す必要があるんです。それもまさかフェレス卿の命令だというんですか」


『質問して答えてくれると思う?』


「いいや」



予想通り、ネイガウスは質問には答えず呪文を唱え、使い魔を召喚した。…しかもまたあの手だ。



「行け!!」


『ホント、マジでこいつのセンスを疑う』


「無駄口叩いてないで…!」



雪男に向かって大量の手が向かう。もちろん海の元にも来るのだが、炎で焼かれるため何もしなくでも平気だ。



『あーピンチみたいだし、使い魔出してあげるか。…フラウロス、マルコシアス』



呼べば出てくる二匹。



《…まさかオレにこいつ等を倒せと?》


《俺達は便利屋じゃねェんだぞ!》


『いーから、雪男の援護に行ってやれ』



文句を言ってくる二匹を無理矢理行かした。何だかんだ行ってくれる二匹。良くできている。
彼らは雪男の前後に立つとそのまま炎で手を焼き払った。流石オレの使い魔。



「遅い… "視よ、此処に在り。屍のある所には、鷲も亦あつまらん!" …コイツはな、私の持ち駒の中でも最上級の屍番犬(ナベリウス)だ!」


《まさかあれも相手しろと…?》


『当然』


《《ふざけんな!!》》


『命令だっての… うおっ!』



屍番犬が伸ばしてきた手を飛んでよけると、そのまま刀を投げ、突き刺した。…途中なぜか一本増えていたが。



《ホギャァァアア!》



「テメェ やっぱし敵か…!」



やってきたのは燐だった。いつの間にかクリカラを抜いていて、悪魔化している。



「悪魔め…!」


『(あれ、聖水じゃん!このままじゃオレも燐もモロ被るじゃん…!)』



落下地点で聖水を構えるネイガウス。分かっていない燐はそのまま落ちる。
今さら海が手を掴んで軌道をずらそうとしても、間に合わなかった。



「…ぐ、うあッ」


『ぐあぁああ!』


「人の皮を被っていても聖水が効くようだな。やはり本性は隠しきれないという訳だ。だが大したダメージにはならないか。化物め…!」


「『うわっ!!』」



いきなり屍番犬に体を掴まれ、きつく締めあげられていく。



『お、い…雪男にフラウロス、マルコシアス…!テメェら、相手してたんじゃ、ねェのかよ…!』



途切れ途切れになりながらも悪態を吐く。途端に屍番犬が消え、解放された。雪男が魔法円の一部を消したのだ。ナイス!



「チィ(消されたか)…!」


「お前は何者だ」


『これ以上使い魔は出さない方が身のためだぜ。失血死してェんなら一人でひっそり逝けよ』



首の両側から刀を突き付ける。もう逃げ道はない。するとなにを思ったか口を開いた。



「…私は“青い夜”の生き残りだ… 俺はわずかの間サタンに体を乗っ取られこの眼を失い… そして俺を救おうと近づいた家族をも失った…
サタンはオレの手を使って家族を殺した。こんな屈辱的な事があってたまるか…!」



突然狂ったように笑い始める。



「ゆるさん、サタンも悪魔と名のつくものは全て!サタンの息子と血をひく者など以ての外だァ!」


『(ヤバッ!)』


「貴様は殺す… この命と引き換えてもな!!」


『燐っ!』





ドンッ





「おわっ!」



咄嗟に燐を押し、彼が受ける攻撃を代わりに受けた。フラウロス達が吠えたのが聞き取れた。



『ゴフッ』



血が出てきた。うん、当然か。どうせだからこのまま燐が言うはずだったセリフを借りようか。



『気ィ済んだか?』


「(コイツ、代わりに…!)」



今度は燐が近寄ってこようとしたから、刀を鼻先に突きつけて近寄らない様にした。あれだ、実力行使ってヤツ。



『足らねーか?来いよ、何度でも相手してやろーじゃねーか。だけどよ、オレの仲間に手ぇ出すんじゃねぇ。出したら…』



今度はネイガウスに刀を突き付ける。すでに腹に刺さっていた手は抜かれていた。



『オレはテメェを殺すことを厭わない。たとえお前が地獄に落ちようとも、地の果てまで追っかけて……殺す』


「………こんなもので済むものか… オレの様な奴は他にもいるぞ。覚悟するといい…!」


『その程度の覚悟なんてとっくに持ってるっての。要らん忠告だ』



そう言い捨てるとネイガウスはそのまま屋上から去っていった。ネイガウスが出て行ったと同時に床に座り込む。



「海…!何やってんだよ…!」


『何って…燐を助けたんだよ。どうせ傷はもう塞がってる。…ホラ』



服をまくりあげて傷を見せる。ああ、腹しか見せてないけど。



「お、おま!!何してんだよ!!早く下げろ!!」


『何だよ…?』



燐の言う通り服の裾を下げた。慌てる理由が分からない。



『じゃ、オレあいつが来る前に帰るんで…』



フラウロスとマルコシアスを戻し、代わりにラウムを出す。
ラウムは言わなくても分かったのか巨大化すると、その背にオレを乗せた。



『ゼルは頼んだ』



そう言い残すと夜の闇に紛れこむようにして海はラウムとともし姿を消した。




  
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