魔の預言者 本
□第十一話
2ページ/3ページ
《ヒック、ヒック、ヒック…》
『…いた』
《この子かな?》
『コイツで間違いねぇだろ、絶対』
どうやらしえみ達より先に見つけてしまったらしい。少年は雪男が言っていた条件と見事に一致している。それに…
『(オレこの場面知ってるし、悪魔だから声聞こえるし)』
少年はメリーゴーランドではなく、コーヒーカップの中で蹲って泣いていた。違うのはここだけの様だった。あと服装等は全て一致している。
『おい少年。いつまで泣いてんだよ。さっさとあっち(天国)に行けよ。此処に居たって何も面白くねーぞ』
《だ、だってぇ…う、ヒック》
少年は海の胸の中に飛び込んできた。そのままつっかえながらも話し始める。…しえみ達の仕事うばっちまったかな。
《…ぼくは…ずっとびょうきで…びょうきがよくなったらこのゆうえんちあそびきこようって…
お父さんとお母さんと約束してたんだ…でもぼくはしんじゃったから…。もう、もうだれともあそべないんだ!》
『知ってる』
《え?》
『オレは全てを知っている。お前のことも、全て』
《な、んで…》
少年の目が見開かれる。
『オレは未来も過去も全て知る者。悪魔なら聞いてるんじゃねーか?異世界から来た者…“魔の預言者”のこと』
《ほんと、だったんだ…まのよげんしゃって、ほんとうにいたんだ…うそじゃないよね?》
『嘘ついてどーする。で、お前をあっちに送りに来た』
《や、やだっ!ぼくはこっちでまだあそんでない!》
そう言うと少年はどこかへ飛び去って行ってしまった。…あっちはメリーゴーランドがある。
『(これで主流に戻ったか…)』
《ね、いいの?》
『何がだ』
《あの子に正体バラしちゃって》
『いーんじゃねーの?別に』
巨大化しているゼルに寄りかかる。夏に近づいてきているため少し暑いが、まだ気持ちいいといえる。
『さて、もう少ししたらオレ達も移動するぞ』
《どこに?》
『メフィストの銅像んトコだ』
ゼルに背に跨って腕を組む。ゼルは訝しげな顔をしていたが、やがて普通の顔に戻り日陰へと移動した。
『どこ行く』
《此処で待ってるのは暑いから、日陰でいた方がいいでしょ》
物陰へと移動すると、腕を組んでその場に伏せる。
『確かにこっちの方が涼しいな』
《でしょ?》
『だが“あれ”はもうすぐだと「うっせ〜!ババア!」…声のした方に行くぞ、ゼル』
《え〜もう?もう少しここにいようよ〜》
『行かなきゃマタタビ酒もう飲ませねーぞ』
《うー…分かった》
名残惜しそうにその場から離れると、声のした方に向かってのろのろと向かい始めた。
〜メフィスト銅像前〜
そこではすでにアマイモンと燐が対峙していた。
「うわっ、誰だテメー!?返せ!!」
「ボクはアマイモン。悪魔の王様です。貴方の兄の様なモノです。ハジメマシテ。あと、剣は返しません」
「ハハぁ、これが降魔剣…一体どういうからくりなのかな」
鞘から剣を引き抜いたアマイモン。
「や、やめろ!!」
完全に引き抜かれた剣。燐の体には当然炎が灯る。
「成程。この剣、刃の部分は虚無界につながっている小さな入口のようだ。鞘はその扉の役目をしている。
キミは“炎”は虚無界に、“体”は物質界に存在しているんですね。
刃を鞘に納めれば入り口は閉じられ、抜けば開かれる…。そういう仕組みになっている」
「返せ!!」
「あー、兄上の首が…」
アマイモンに飛びかかろうとするがいとも簡単に避けられてしまう。その衝撃でメフィスト銅像の首が折れた。
「テメェ、マジで何が目的だよ!」
「目的。暇だったので遊びに来ました」
「はぁ!?」
「日本の遊びも少々勉強したんです。おーにさーんこーちら♪手ーの鳴ーるほーうへ♪」
完全になめられている。
「なめてんじゃねーぞ!」
「おーにさーんこーちら♪手ーの鳴ーる…方へ♪」
飛びかかってきた燐にデコピンを喰らわす。たったそれだけで燐の体は下に向かって落ちていった。
「(な…)」
『おー、やってるやってる』
海はようやくジェットコースターの下に辿り着いた。前方にはしえみと霊の少年が居る。
少し離れた所からはあいつがやってくる気配…。メンバーがそろい始めている。
『燐、やられっぱなしじゃおわんねーだろーな』
上の方から落ちてくる燐はアマイモンに殴られまくっている。
『しえみ、今のうちに避難させとくか』
しえみの元へ向かおうとした瞬間、地鳴りがし、上の方に影がかかった。
『…マジかよ、早すぎねーか?』
「きゃあああああ!!」
とりあえず言葉を操ってる暇もないので、急いでしえみの元へ行く。
『(間に合えよっ!)』
「海ちゃんっ!?助けてぇ!」
しえみの大声で燐の正気が戻った。瞳に映るのは、蹲るしえみと、その元へと急ぐ海の姿。
「(海…しえみ!!!!)」
その手から放たれた炎が、瓦礫を消し去った。
「……え?」
『無事か、しえみ』
「海ちゃんこそ…腕が…」
『ん?…ああ、これぐらい大したことねェよ』
腕には小さな破片で作ったのであろう傷があった。