魔の預言者 本

□第十三話
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「皆さん、今日から楽しい夏休みですね!」


『コレのせいで全然楽しくねぇよ…』


「……如月さん?何か言いましたか?」


『別に、なんも言ってねぇよ』



わざとらしく問いかけてくる雪男に、睨んで返す。



「…候補生の皆さんは、これから“林間合宿”と称し…“学園森林区域”にて、3日間の実践訓練を行います」



別にそんなのやんなくたって、こちとら嫌というほど実践を経てるっての。所詮、騎士団の犬だしな。



「引率は僕、奥村と霧隠先生が担当します」


「にゃほう」


「夏休み前半は主に塾や合宿を強化し、本格的に実践任務に参加できるかを細かくテストしていきます。
この林間合宿もテストを兼ねていますので、気を引き締めていきましょう」



皆返事をする中、オレは森のある方を睨んでいた。










〜正十字学園最下部 学園森林区域〜



合宿場へと向かうための山道を登るみんなの息は荒い。……もちろん一部は除いてだが。



「…祓魔師いうか…行軍する兵隊みたいな気分やな…」


「暑い暑い」


「しんどい…」


『確かにな』


「そういってるわりに、海ちゃん全然疲れても暑そうでもないやないか!」


『暑くはねぇし、疲れてもねぇよ。ただ、めんどくせェだけだ』



きっぱりという海に、あり得ないと廉造が言う。



「うおーい、滝だ!ちっちゃい滝あるぞー!飲めっかなコレー!」


「なんであいつ、あないに元気なんや」



雪男の制止も聞かず、燐は滝の水を飲み、はしゃいでいる。まるで今からキャンプにでも行くような様子だ。



「何気に奥村くんと海ちゃんて、体力宇宙ですよね」


『お前らの体力がなさすぎなだけだろ』


「いや…人並み以上はあると思いますよ…」



しんどそうな表情の皆を尻目に、ゼルとフェンリルを両肩に乗せた海は、涼しそうな顔で山を登って行った。










〜数十分後〜





「さて、此処でテントを張ります」



開けた場所に着くと、荷物を置くように指示された。



「此処は日中は穏やかですが、日が落ちると下級悪魔の巣窟と化すので、日暮れまでに拠点を築きます」


《なぁ…》


『何だ?フェンリル』


《下級悪魔、食べてもいいのか?》


『勝手にするといい。ただ腹壊すなよ』


《オレも食べるー!》



両肩で悪魔をどうやって食べるとか話している2匹を地面に下ろし、先程雪男に言われた内容を聞くため出雲のもとへ行く。



『なぁ、オレ達は何をするんだ?』


「あなた、聞いてなかったの!?」


『あいつらが煩くて聞こえなかったんだよ』



後ろから急いでオレのもとに来ようとしている2匹を指さす。



「………」


『(あ、悶えてんな)』



出雲は確か、可愛いものに目がなかったはずだ。その視線はフェンリルへと注がれている。
実際の大きさになると、それは可愛いとは言えないが、今は小さくなっている彼。



『(ストラーイクってか?)』



前世で読んだ漫画のウサギの言葉を借りる。



『…いい加減戻って来い、出雲』


「……はっ!わ、私達はシュラ先生の指示で、魔法円の作画をするのよ!!」



正気に戻った出雲が、慌てて海に伝える。



『……そうか。ああ、言っておくけどな』


「な、なによ」


『フェンリルは、オレ以外に懐かない。抱っこはできねぇよ』


「そ、そんなことしようとは思ってないわよ!!」



顔を真っ赤に染めながら、出雲はシュラのもとへと行ってしまった。




  
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