疾風迅雷 本
□第1Q
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誠凛高等学校
去年出来たばかりの新設校では
早くも一年生部員の獲得に2年が動いていた。
「ラグビー興味無い!?」
「将棋とかやったことある?」
「日本人なら野球でしょー」
「水泳!!チョー気持ちいい!」
2年がブースの前で声を張り上げる。その周りを今年入学した一年生がごったがえし、とても前に進める状況じゃない。
そんな中を人にぶつからず、しかも本を読みながら歩く水色の髪に水色の瞳の青年。
「本好きなの?文学部とかどうですか?」
そんな彼に2年が勧誘をした。と、思いきや……
「いや、これマンガなんで」
2年の彼が話しかけたのは水色青年の後ろにいた、同じく本を持って歩く青年だった。まるで水色青年の姿が見えていない様子。
その青年が部活ブース案内板を横目で見る。目に留まったのは、バスケ部のブースだった。
そして数刻前、宝城真琴も男バスのブースに居た。気配を消しているため、周りの人間は気づかない。
『(入部届……これに記入すればいいんですよね)』
勝手に紙を引き抜くと、さらさらと記入していく。
『(置いときますよ)』
書き終えると、机番をしている先輩の横に紙を置く。少し物音をたてたが、目の前の先輩の目がこちらを向くことはない。
『(気配に鈍感ですね…―)』
カバンを持ち直すと、足早にその場を去っていった。
「じゃ、ここに名前と学籍番号ね」
「はい。後は…出身中学と動機…?」
「あ、そこら辺は任意だからどっちでもいーよ」
男バスのブースの机番をしている女性。名を相田リコ。
「…っと。ひーふー…今10人目か。もーちょい欲しいかなー」
「…来ました。新入生」
彼女の前には勧誘に行っていた2年の男子部員。何故か涙目だ。
「バスケ部ってここか?」
「わあっ!?」
見上げるほどの青年が勧誘に行っていた男子部員の襟首を掴み、後ろにいた。先輩の威厳はもはやどこにもない。
「(連れてこられとるやんけー!?)…うん」
まるで野生のトラのような彼。
「…で、知ってるとは思うけど、ウチは去年出来たばっかの新設校なの。上級生はまだ2年だけだから、キミみたいに体格よければすぐに…」
「そーゆーのいいよ。紙くれ」
「え?」
「名前書いたら帰る」
手渡された紙には出身校はアメリカと書いてあった。
「(お〜なるほど。本場仕込み!?火神大我君…か。どっちにしろタダ者じゃなさそーだね)」
既に帰り支度をする火神に、リコは一声かけた。
「あれ?志望動機はなし…?」
「別にねーよ。どーせ日本のバスケなんて、どこも一緒だろ」
見下すという表現が一番合っている。そんな感じの話し方だったが、帰る間際の顔は、どこか悲しそうだった。
「こっ…こえ〜!!あれで高一!?」
「てゆーか、首根っこ掴まれて帰って来た理由が知りたいわ…」
「それは……二枚入部届け集め忘れてるっスよ」
「え?いけない。え〜と…黒子…テツヤ…。それと、宝城真琴?」
見覚えのない紙。ずっと机番をしていたにもかかわらず、紙を出されていることすら気付かなかった。
「…って、黒子ってこの方は帝光バスケ部出身!?」
「ええっ!?あの有名な!?」
「しかも、今年一年ってことは“キセキの世代”の!?うわーなんでそんな金の卵の顔忘れたんだ私!!」
「…もう一人の方は?」
「…さ、桜嵜中学…」
「あの“疾風迅雷”と例えられた女子キャプテンが居たあの中学校!?」
「…しかも、キャプテンだ、この子」
「さっきの奴はアメリカ帰りだし…今年一年ヤバい!?」
二年二人の大声は、他の生徒の話声によって綺麗にかき消された。