疾風迅雷 本
□第1Q
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「えっと、真琴ちゃん?」
『何ですか?』
「ちょっと部室に来てもらえないかしら?」
『いいですよ』
リコは真琴を体育館から連れ出し、部室の中へと招いた。理由は簡単。数値を測定するためだ。
『シャツを脱ぐんですよね』
心を見透かした真琴は、言われる前にシャツを脱いだ。
「あ、あり得ない……」
その数値は計り知れない。いくら練習を積んでも、こんな数値は出ない。
『そんなにいいんですか?僕の数値は』
「ええ、あり得ない数値だわ……一体何をどうしたらこんな数値になるのよ」
『何でしょうね』
「というか、なぜあなたほどの実力者がマネージャーを…?」
『つまらないからです』
「何が?」
『僕のことを心底震え上がらせてくれる選手が、女バスの選手にはもういないんです。キセキの世代も、もう対戦済みです。
彼らほど僕を手こずらせた人達はいません。だから、男バスのマネージャーになればキセキの世代のような人がいると思ったんですよ。
もちろん、試合に出る事はルール的に無理なのは知っています。でも、まぁ、試合が終わった後の空き時間に申し込むことは可能でしょう?』
ただそれだけの理由です。そう淡々という彼女の眼には、光が灯っていなかった。まるで失望したような瞳。
そんな彼女に、リコはかけてやれる言葉が見つからなかった。
「真琴」
『ああ、テツですか。どうかしましたか?』
帰路に付いていた真琴の横に駆け寄る黒子。
「聞いてませんでしたよ、真琴が誠凛に来るなんて」
『言ってませんでしたからね』
黒子は真琴の手を引いて近くのMAJIバーガーに入った。バニラシェイクを2つ頼み、手に取ると真琴の座る席へと行く。
「…なぜあなたほどの選手が?」
『それ、リコ先輩にも言われましたよ』
「質問に答えてください」
『…火神君が居るのに、話してもいいんですか?』
いつの間にか横に座っていた火神。彼も今真琴達に気づいたようだ。
「なんでお前らが居るんだよ!」
『僕達の方が先に座ってたんですよ。途中から来たのは火神君の方です』
「そうですよ」
何なんだ、こいつら…とでも言いたげな視線がびしびし刺さる。
「それより、ちょっとツラ貸せよ」
これ食ってから。火神が指さしたのはトレーの上に大量に置かれたハンバーガーだった。
〜ストリートバスケット〜
「オマエ…一体何を隠している?」
火神に連れてこられたのは、さほど遠いところでもない練習場。ちゃっかり真琴も付いて来ている。
「………?」
「………オレは中学二年までアメリカに居た。日本(コッチ)に戻ってきてガクゼンとしたよ。レベル低すぎて。
オレが求めてんのはお遊びのバスケじゃねー。もっと全力で血が沸騰するような勝負がしてーんだ」
似ている。そう思った。強い人間を求めているところは、僕と全く違わなかった。
「…けどさっきいいこと聞いたぜ。同学年に“キセキの世代”ってつえー奴らが居るらしーな。オマエはそのチームに居たんだろ?
オレもある程度は相手の強さは分かる。ヤル奴ってのは独特の匂いがすんだよ。…がオマエはオカシイ。
弱けりゃ弱いなりの匂いがするはずなのに…オマエは何も匂わねー」
黒子にボールを投げ渡す火神。
「確かめさせてくれよ。オマエが…“キセキの世代”ってのがどんだけのもんか」
「……奇遇ですね。ボクもキミとやりたいと思ってたんです。1対1(ワンオンワン)」
学ランを脱ぎ捨てる両者。真琴は遠くから見ていた。結果は分かり切っているのだが。
〜数分後〜
ガンッ
「はぁ!?(しっ、しっ、死ぬほど弱えぇえ!!)」
ドリブルはできない。シュートはブロックしなくても入らない。スティールもカンタンにできる。
「ふざけんなよテメェ!話聞いてたか!?どう自分を過大評価したらオレに勝てると思ったんだオイ!」
「まさか。火神君の方が強いに決まってるじゃないですか」
「ケンカ売ってんのかオイ…!どういうつもりだ…」
「火神君の強さを直に見たかったからです」
「…はぁ!?(ったくどーかしてたぜ、オレも…ただ匂いもしねーほど弱いだけかよ…アホらし……)」
頭を抱える火神。それを見て内心ため息を吐く真琴。
「あの…」
「あー、もういいよ。弱ぇ奴に興味はねーよ。…最後に一つ忠告してやる。オマエ、バスケやめた方がいいよ。
努力などなんだのどんな綺麗事言っても、世の中には才能ってのは厳然としてある。お前にバスケの才能はねぇ」
「………それは嫌です。まずボクバスケ好きなんで。それから、見解の相違です。ボクは誰が強いとかどうでもいいです」
「何だと…」
「ボクは影だ」
「……?」
その日はその意味深な言葉で終わった。