疾風迅雷 本
□第9Q
2ページ/2ページ
真琴とリコが呑気に話している間も、試合が止まることはない。同点になった瞬間、黄瀬の雰囲気が一気に豹変した。
「(コイツ…フンイキが変わった…!?)」
黒子の横をものすごい速さで駆け抜ける黄瀬。
「黒子…」
先程と同じように後ろからバックチップをしようとするも、黄瀬は瞬時にボールを持つ手を変えてしまった。
「……!」
「なっ…」
そのまま火神も抜き去ると、思いっきりダンクをかます。
「オレは負けねェスよ。慣れにも、黒子っちにも」
「(コイツ、ここに来て…まだ強くなんのか!?黒子も見切ったってのかよ!?)」
影が十分に薄まっているはずにもかかわらず、黄瀬はそれを察知したとでも言うのだろうか。
「ヤべぇな…全員気ィ入れろ。こっから試合終了まで第1Qと同じ…ランガン勝負だ!」
日向の言った通り、それから試合が終わる間際まで点の取り合いは続いた。
誠凛が1点取れば海常が返し、
逆に海常が取れば誠凛が返す。
両者とも一歩も引かない試合展開だった。
『(あー、羨ましいですね…)』
コートの中を縦横無尽に駆け回る選手達を見て、真琴はそう思った。
『(結局出られたのは10分にも満たない…。いや、出させてもらえただけよかった。本来なら無理な展開でしたし…)』
残り1分。
『(それにしても皆、楽しそう。あーいう強敵相手に此処まで攻められると、気分もハイになりますよねー)』
残り30秒。
『(バスケがしたい…。キセキ達と、バスケをしたい…。僕のことを、あそこまで追いつめてくれる、彼らと…)』
もう一度、バスケを…
「真琴ちゃん!何ボーっとしてるの!!声出して!!」
リコに頭を軽く叩かれ、一気に現実に呼び戻された。
『(…今はそんなこと考えている余地はない。ただ目の前の仲間に精いっぱい声援を送ることだけを考えるんだ)
日向さん、伊月さん、水戸部さん、火神君、テツ、頑張って…!』
珍しく敬語の抜けたしゃべり方。あまり大きいとは言えない声。それでも周りの声援に引けを取らない。
「うわぁあ、また同点!?」
「ッの…!!しぶとい…!トドメさすぞ!!」
残り15秒。
「時間ねぇぞ!!当たれ!!ここでボールとれなきゃ終わりだ!!」
「「「「おお!」」」」
「火神君、一瞬いいですか。此処取れれば…黄瀬君にコピーされない手がもう一つあります」
「(残り10秒切った…もうウチに延長を戦う体力はない―――!!)守るんじゃダメ!攻めて!!」
残り7秒。
「(…ッの、ヘタレ!!)」
日向の膝が折れた。その隙に笠松が飛ぶ。ノーマークで入ると思われたそのボールも、横から現れた火神が獲り、日向に渡す。
「うわぁあ、獲った!!」
「マジかよ!?」
油断していた海常側。ゴール付近には黄瀬以外誰もいない。
「黒子!!」
突然、走っていた火神が黒子にパスを出す。
「(黒子っちにはシュートはない!ツーメンだったら火神にリターンしかないスよ…!?)」
黒子はシュートを打つわけでも、火神にボールを戻すわけでもなく、リングに向かってパスを出した。
「…パスミス!?」
残り1秒。
「…じゃねぇ!!アウリープだ!!」
投げられたボールの横に火神が跳んでいた。
「させねェスよ!!」
同時に黄瀬も跳ぶ。だが
「(―――まだ…!?いつまで…!?)」
二人とも同時に跳んだにもかかわらず、黄瀬の方が先に落ちていく。
「(同時に跳んだのにオレが先に落ちてる…!?何なんだ、お前のその宙に居る長さは…!?)」
「一回きりの単純な手ですけど…」
「テメーのお返しはもういんねーよ!!なぜなら…」
「ブザービーターで決めちゃえばいいんです」
「これで終わりだからな!!」
黄瀬の目の前で豪快に決められるダンク。そして、追加される2点。
100対98