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□標的54
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『創龍…』
《呼んだか?》
『うん……』
《悩んでいるのか、カレン。記憶があることに対して》
『これで悩まないことの方が可笑しいよ』
トレーニングルームには誰もいない。その方が都合がいいので創龍を呼び出した。ほぼ本来の大きさで来たため首が痛い。
《記憶、消してやろうか》
『それは嫌だなぁ』
《何故だ》
『助けられなくなるから』
《なら大丈夫だ》
『え…』
見上げるのが辛くなってきたのを感じ取ったのか、小さくなってくれた創龍。目線を合わせるように僕の前に浮かぶ。
《人間、生きていれば誰でも悩む。壁にぶち当たる》
『…』
《それを乗り越えたとき、道は開ける》
『分かってる…分かってるんだよ』
《乗り越えるには、強い意志が必要だ。お前にはそれがある》
『…分からないよ。僕に意志なんて…』
《“みんなを助けたい”お前の願いだろう?》
『願いと意志がどう関係する?!そんなので壁を乗り越えられる?!』
《願いは願うほど大きくなる。そしていつの日か強い意志と形を変える。お前の中にいるから分かることだ》
『創、龍……』
白と黒の瞳を細めると、「リングに炎を灯せ」と言ってきた。
『…灯したけど』
《それがお前の覚悟の表れだ。強い意志…すなわち覚悟がなければ炎は灯せない。そうだろう》
『あ…』
《こんな小さなことで悩むな。答えはお前のすぐ目の前にある。それに…》
『それに?』
《……お前には、ボンゴレがいるだろう》
「…そうだ」
『ぅえ!?』
「追いかけてみれば…オレは…いや、オレ達はそんなに頼りねぇか?」
『そんなんじゃ…』
《お前のその一人で溜め込む癖が、周りの者に不安を与えるということを忘れるな。もうお前は一人じゃないんだぞ》
創龍はそう言って消えていった。
『(一人じゃ…ない…)』
確かにもう、僕は一人じゃない。
『綱吉…』
「オレ達を頼れ。オレ達はお前を一人にはしない。………見捨てない」
『……う、ん…分かった』
「そうしてくれ」
一緒にトレーニングルームを出て、さり気なくラルがいるところまで誘導する。もちろん、治療するために。
「ラル・ミルチ!」
『ラルッ!』
ラルがいるはずの階に着くと、目の前には床に座り込んでいるラル。どう見ても大丈夫そうではない。予想以上の辛さと見える。
「如何したラル?!」
「ん………」
『…ラル』
「…………誰だ……?」
「ッ!?」
「沢田に…カレンか。少し…ふらついただけだ」
「ラル…目…」
「以前から右目は弱いんだ。そのためのゴーグルだ…もう必要なさそうだがな…」
『僕、誰か呼んできます』
「その必要はない」
『…』
「余計なことをするな!!5日後の作戦でオレが足を引っ張るわけにはいかない。このことは誰にも言うな!!」
「だが…『分かりました』カレン!」
『誰にでも、介入してほしくない時ぐらいある。僕も経験したし、その気持ちは十分わかる』
でも…と続け、療龍を呼び出す。
《なんだ一体》
『ラルの負担を少しでも減らして』
《…分かった》
薄緑色の炎がラルの体を包み込む。先ほどまで荒かった息遣いが多少穏やかになった。
『また辛くなったら言ってください。いくらでも治療します』
《…俺達は万能じゃない。その“呪い”だけは消せないぞ》
そう言い残して療龍は消えた。
「オレのことをいくら癒そうが、沢田の決断がどちらでも結局は地獄だ。どちらを選んでも変わりはない」
「…なら、軽いほうの地獄を選んでやるよ」
「……軽い地獄など、あるものか」
結局は参加しようが、引き伸ばそうが、地獄行きに変わりはない。ラルの目がそう告げていた。