疾風迅雷 本

□第9Q
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「いやいやいや、何言ってんのダメ!怪我人でしょ!てかフラついてるじゃない」


「? 今行けってカントクが…」


「言ってない!たらればが漏れただけ!」


「…じゃ、出ます」


「オイ!」



いつの間に目が覚めていたのやら。フラフラと安定感のない歩き方をする黒子。



「ボクが出て戦況を変えられるのならお願いします。…それに、約束しました。火神君の影になると」


「………」



迫力という迫力もないが、何も言えなくなるリコ。何を言っても聞かなそうな黒子に対し、一つため息をつく。



「分かったわ…!ただし、ちょっとでも危ないと思ったらスグ交代します!」



そう言うリコに、黒子は満足そうに笑って見せた。










ガラガラガラ……





真昼間の道路にこだまする何かを引く音。音のする方に視線を向ければ……リアカー。



「くっそー、信号待ちで交代じゃんけんなのに…まだお前一回もこいでなくね?」



リアカーに接続された自転車をこぐ男子が息絶え絶えにリアカーに乗る長身の男に怒り気味に言う。



「そんなの…当然なのだよ。なぜなら今日のおは朝の星座占い、オレのかに座は一位だったのだから」


「関係あるのソレ!?」



おしるこ(もちいりドリンクタイプ)片手に長身の男はさも当然のように言ってのけた。



「つーかわざわざ練習試合なんか見るぐらいだから、相当できんだろなお前の同中!?」


「まねっ子と…カゲ薄い奴なのだよ」


「それ強いの!?」


「それより早く!試合が終わってしまう!多分もう第4Qなのだよ!」


「お前が占いなんか見てたからだろが!」



そう文句は言うものの、自転車をこぐ健気な男子なのだ。










一方、コートに戻った黒子は真琴と交代し、持ち前の影の薄さを取り戻していた。



「慣れかかってたのにまた元の薄さに戻ってやがる…!第2・3Q丸々20分引っ込んでたから…?」



海常の主将、笠松が恨めしげにつぶやいた。



「うおおマジか!?差が詰まってる…!?」



ただ今80対82。もうそろそろ同点だ。ボールは黒子の手元。それを日向に上手くパスをする。



「まさか…ウソだろ…!?」



日向の放ったシュートは綺麗な弧を描き、リングに吸い込まれた。



「同点…!?」


「同点だぁー!?」


「誠凛、ついに追いついた!!」



ギャラリーが口々に騒ぎたてるのをベンチに座って聞いていた真琴ガ聞き逃すはずもない。



『…これで、勝敗は分からなくなりましたね、黄瀬君』



少々かいている汗をタオルで拭きながら、コートの中で目を見開いている黄瀬に向かって呟いた。
それを聞いたリコは真琴にドリンクを渡しながら心に突っかかっていたことを尋ねた。



「はい、どうぞ。……そう言えばさ、真琴ちゃんは黄瀬君と何回1対1したの?」


『ありがとうございます。で、何故今それを?』



コートの中では選手が戦っているというのに。



「ちょーっと気になっててね。たとえ負けたことがないって言っても、たった数回じゃ『分かりません』え?」


『正確には覚えてないんですよ。一々数えていられないぐらい、やりましたから』



これから先も、負けるなんて失態は侵しません。




そう言ってのけた真琴に、本当になぜこの子は女バスに入らなかったのだろうと思った。




  
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