理想と真実 本
□第四話
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「…どこまで行ってたのよ」
『事件があったとこまで行ってた』
「なっ、危ないでしょう!仮にもレインちゃんは女の子なんだから!」
《仮にもだとよ》
『スイラは黙ってろ…で、アララギ、モンスターボールくれ』
「とうとう私まで呼び捨て!?」
『…いい、自分で買ってくる』
相手にしてたら埒が明かないと察し、自分で買いに行こうとしたがアララギに止められてボールを渡された。
「せめて呼び捨てはやめましょうよ。オーキド博士にも言われるはずよ?」
『いや、アイツは言わねーよ。向こうでよく世話になったし、向こうでのパートナーらは皆アイツが面倒見てるしな。
別に初見ってわけでも、親しくねぇ訳でもねーし』
「…もういいわ。諦めた」
《それが一番いいぞ》
『マジでスイラ黙れ』
また喧嘩が始まりそうになった時、研究所の扉が開いた。
「やぁ、アララギ博士。予定より遅れてしまってすまないな」
「オーキド博士!いえ、気にしてませんから。それよりお疲れになったでしょう?さ、座って下さい」
「そうさせてもらうよ」
ソファーに座り込むオーキド博士。なぜかアロハシャツを着ている。そして、その横には一人の少女と少年、若い女の人がいた。
『オーキド、オレに合わせてェ奴ってのはどいつだ?』
「ああ、レイン君、久しぶりだね。紹介するよ。この子が璃音君。そしてこの子がサトシ。その隣にいるのがママさんだ」
「よろしく」
「よろしくなっ!」
『…(あのポケモンは…んだよ、他の地方から来た奴か)』
少女の肩には方にプラスルとマイナンが乗っている。少年の方にはピカチュウがいた。
『…これだけならオレは帰るぞ』
「まあまあそう言わずにな。サトシの方は観光じゃが、璃音の方はここで旅を始めるつもりなんじゃ。そこでだな…」
『オレにここの案内をしろと?』
「もの分かりがいいのぉ。さっそく行って来てくれ!」
背中を押されて研究所の外に放り出される。なぜか璃音以外にサトシもついてきていた。
『んでテメェまで来るんだよ』
「オレだってここの案内をしてほしいんだよ。一人くらい増えたって変わんないだろ?」
「オレも同感っ!でもサトシ、騒いだら口ふさぐよ?(黒笑)」
うわっ、一人黒かよ。…めんどくせぇ。無言のまま先頭を歩き、近くの森の中に入って行く。
「ってかさ、お前の横にいるポケモン、スイクンだろ?何で伝説のポケモン持ってんだよ?もしかして無理やりパートナーにしてんのか!?」
『んな訳ねーだろ。合意の上でだ。それ以上の質問は受け付けねぇ』
ガウと吠えるスイラ。そのままサトシは黙った。逆に今度は璃音が質問をしてきた。
「ねえ、君“青の魔物”だろ?すぐ分かったよ。一度でいいから会ってみたかったんだよね!ね、他のポケモンも出してよ!」
『めんどくさいから嫌。てか質問は受け付けねーって言ったろうが』
「んだよ、出してよ?(黒笑)」
『いやだっつってんだろ?』
黒笑なんて腐るほど見たし、感じてきている。もう慣れたものだ。向こうは反応を示さないオレに興味をなくしたのか、それ以降誰もしゃべらなかった。
『…とりあえずここらで勝手に歩いてろ。図鑑は貰ってんだろ?オレは案内なんてしねーからな』
開けた場所に出ると、そのまま木を背もたれに座りこむ。こんな事がなければ旅の続きに出るのによ。
『帰りたくなったら自分で帰れ。ボールはアララギに貰ってんだろ?自分で気に入ったやつがいたら勝手に捕まえてろ』
「わかった。オレはあっちに行くな!じゃあな璃音」
「迷子になるなよなぁ!サトシ」
「ならないよ!」
森の奥へと消えていく後姿を見ると、傍にいた璃音に目を向ける。そいつはなぜかにこにこしていて、一向に動こうとしない。
『おめぇはどっかに行かねーのか?』
「オレは君に用事があるんだ」
『奇偶だな。オレもテメェに聞きたい事があった。お前、右の眼、ホンモノじゃねぇだろ』
単刀直入に言い放つ。きっとここにアララギがいたら“気を使え”などと煩いことだろう。
「…すぐそこいく?まあいいや。オレね、親の顔知らないんだ。路頭をさ迷ってるとこをオーキド博士に拾われたわけ。で、この右目は義眼」
眼帯を上に押し上げると、赤い目が鈍く輝く。
「拾われた時には右目がなくってね。最先端医療で義眼を取り付けたんだ」
『もっとグロテスクなもんかと思ったのにな』
「たとえば?」
『他人の目を奪って移植したとか』
「それはさすがにオレでもやんないなぁ」
何故か横に座った璃音。そのまま腰につけていたボールを放った。
『…結構大型の持ってんだな』
「まーね」
出てきたのはメタグロスにラプラス。ラプラスは近くにあった湖で優雅に泳いでいる。
「プラスル、マイナン。おまえたちも遊んできていいよ」
二匹は元気よく泣くと、湖の近くにいるメタグロスのもとへとかけていった。
『仲がいいんだな』
「ああ、彼ら?そーかなー?」
『てか、ここの地方の奴はいねーんだな』
「まだ来たばかりなんだ。当たり前だろ?」
そのまま無言の時間が数分間続いた。