理想と真実 本

□第五話
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『…………着いた』


《大丈夫か?》


『…………大丈夫に見えるか?』


《全く》



空間を切り裂いて移動したため、物の数秒でついた。…でも、これが結構キツイ。ひでェ乗り物酔いをした感じだ。



『ってか、いいから早く戻れ。いくら夕方で人が少ねぇからって見られたらヤバいんだよ』


《…ああ。すぐにジム行くなよ。今日は休め》


『分かったから戻れ』



クウを戻した後は必然的にスイラを出すことになる。ボールを少し乱暴に放り投げてスイラを出した。



《もっと丁寧に扱いやがれ》


『ムリだ、ムリ…』


《お、珍しいことになってんな。お前が弱気だ》


『うっさい。乗せてけ。ポケセン早く行け』


《分かったよ》



うわ。スイラが珍しく素直に言う事聞いてくれてる。天変地異の前触れか?



《テメェ、人がせっかく親切にしてやってんのに…》


『まずお前人じゃねェしな』


《うっせェ。突っ込むな》



そうこうしているうちにポケセンに到着した。周りの好奇の視線がいてぇぞ。より深くフードをかぶり直す。



「いらっしゃいませ」


『個室を一部屋』


「畏まりました」



トレーナーカードを差し出せば僅かに目を見開くジョーイ。そりゃ、オレのカードはブラックだからな。



「はい、201号室の鍵です」


『ありがと』



ご飯とかもういい。どうせ部屋でとれるだろうし。すばやく移動し、部屋の中に入り、ベットに倒れ込む。



《そんなに空間を移動するのは大変か?》


『大変で済むもんじゃねーぞ。すげぇ酷い乗り物酔いって感じだ。世界が回って見える』


《そりゃ大変だな》


『何他人事みてェに言ってんだよ』


《実際他人事だしな》


『…』



くそっ!返す言葉もねぇ…実際その通りだしな。今度は絶対スイラも体験させてやる。意地でも引きずり込んでやる(黒)



《そんなんだったらオレはぜってぇ行かねェな》


『意地でも、連れて行く』


《あっそ。それより早く飯頼めよ。腹が減って仕方がねぇ》



このやろォ…人が今どんなにつらい思いをしてるかしらねェな…
しょうがないから受話器を持って来させて軽いご飯とスイラのご飯を頼む。



『来たら起こせ』


《そんなにかからねーと思うぞ?》


『ほんの少しでも寝てェんだよ』



物の数秒で眠りに落ちた。





ピンポーン♪





《…しょうがねェな。オレが出てやるか》



器用にドアを開ければ、給仕の男が立っている。
オレの姿を見て一瞬驚いたが、アイツがベットで寝ているのを見ると、カートをわざわざ部屋の中まで入れてくれた。
コイツ結構気がきくな。



「カートは明日取りに来ますね、ポケモンさん」


<ガウ>




了解意味を込めて吠えると、わざわざオレに一礼して去っていった。
こんな出来た人間がまだ居るんだな、ここには。
腐った奴ばっかだと思ってたが、面白い奴も残っていたモノだ。



《(だからオレはコイツについているのかもな)》



ベットで寝息を立てる己の主人(マスター)を見た。
コイツに連れて行かれるまではそれはもう退屈な毎日だった。
世界中を飛び回っていたのは確かだ。
だが、人間に姿をあまり見られないようにするためには結構な苦労をしてきたものだ。

なるべく森の奥深くを通り、湖の水を清めていくのが“北風の生まれ変わり スイクン”の仕事だった。
仕事のために、各地の水を清めていく…つまんねぇ事この上なかった。
しかし、全てはこの世の神であるアルセウスが定めた掟。破ることは許されない。
そんな生活を何十年と続けていたある時、レインに出会った。
コイツは掟に縛られていたオレを取り出してくれた。



『こんな生活、つまらなくねぇか?…オレと来いよ。ある程度は楽しめるぜ』




あの言葉に従ってオレは今こいつと行動を共にしている。
別にいつ抜け出してもいいとコイツは言っていたが、今のオレにそんな気は微塵もない。



《ってか、起こしてやらないとな》



思いっきりレインの顔を引っ掻く。いや、引っ掻くといっても爪は出してない。それだけでもコイツは起きる。



『……来たのか?』


《オレが受け取っておいてやった》


『…ありがとな』



うわっ、こいつ今礼言いやがった。明日は槍が降るのか!?勘弁してほしい。



《…そーいや、オレ達伝説のポケモンを捕まえた後、どーしたんだ?》


『どーしたって?』


《オレ達が突然姿を見せなくなると、いろいろと厄介なことになるんじゃねーか?》



“伝説”とは名ばかりで、ちょくちょく人間の前に姿を現すポケモンだっている。
そいつらが突然姿を消したら大きなニュースになりかねない。



『ああ、それなら心配ない。オレが“コピー”を置いてきてやった』


《“コピー”?んだそりゃ》


『オレが作り出した…いや、オレとミライ(ミュウ)とミュウツーとで作り出したという方のが正しいな』


《作り出した!?聞いてないぞ、そんなこと》


『今初めて言ったからな』



黙々と番ご飯を食べながら話すレイン。マジで知らなかった。



『ってか、何でいきなりそんな事聞いてきたんだ?』


《昔を思い出してた》


『ふーん。ま、作りだした奴は性格も行動もよく似せて作ったからばれる事はないと思う。
だが、自我はない。だから勝手な行動はしない………はずだ』


《はずって…》


『何せ、初めての試みだったからな。前例がないからどうなってるかは分からない』



ちなみにレシラム達ももう作って放してある。作った途端、アイツら石になってどっか行っちまったけどなー。

…いや、よくねぇだろそれ!!どっかってどこだよ!!発信機とか付けようと思ったことねーのかよ!!



《(コイツにツッコミいれても意味ねーか…)》


『何考えてやがる』



いつの間にか食事を終え、お風呂も入り終え、ベットで今にも寝そうになっている自分の主人。
いつの間に終えたんだ…。ある意味怖い存在だ。



『オレは寝る。明日は……8時くらいでいい』


《解ったよ》



そう言えばそのまま掛け布団を頭までかぶると、程なくして寝息が聴こえて来た。
行動を共にするようになってから、コイツを起すのはオレの役目になっていた。



《全くめんどくせぇよ》



そうは言っているものの、全くそういうふうには見えない。逆に面白そうに、笑っている。



《……オレも寝るか》



器用に部屋の電気を消すと、レインの使っているベットではない方のベットに飛び乗った。
流石は最上級の部屋というだけある。フワフワ感がすごい。



《(おやすみ……)》



柄にもなくそう思った。




  
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