理想と真実 本
□第五話
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〜午前9時ごろ〜
『ふあーあぁ…ん、スイラの奴…完全に寝坊したな……』
珍しくスイラが寝坊したようだ。枕元に置いてある時計には“9時05分”と、表示されている。
隣に目を移せば、それはもうまるで人の様に綺麗に掛け布団をかけ、組んだ前足の上に顔を載せて気持ちよさそうに寝るスイラが居た。
『おい、スイラ…テメェ寝坊しやがって…』
掛け布団を剥ぐと、眠そうに前足で片目をこするスイラ。そのままハッとしたように起き上がった。
《……今何時だ?》
『9時7分だ』
《……わりぃ、寝坊した》
『…別にいい。ジムは逃げねェからな』
その後、さっさと用意を済ませると、荷物を持って部屋を後にした。
『……朝食食い過ぎた…』
《何でもかんでもとるからだ》
『全部うまいのがいけねェんだ』
《料理のせいにすんな》
口許を抑えながらジムに向かう。この街は高層ビルだらけだ。あまり居心地がいいとは思えない。
通りを通る人々もどこか焦ったように忙しなく足を動かし進んでゆく。
『ジムはどこにあるんだ?』
《…………ここだ》
街の端の方にあるジム。やはりそこもビルの一部になっていた。
「あ、レインじゃないか」
『チェレンか』
バトルした時以来に会う。ヒウンでは入れ違いだったようだし。
「此処のジムリーダーは強いよ。まぁ、勝ったけどね」
『ふーん』
「本当は今すぐ君の実力を見てみたいところなんだけど………今日はやめておくよ。またね」
チェレンはそう言い捨て去って行った。
『…えらい上から目線だな。まぁいい、行くぞ』
さっそく入ろうとした時、モジャモジャ頭の男性が飛び出してきた。
「うぉあ!?…ひょっとしてジムにチャレンジ?申し訳ないんだけど、ちょいと待ってくれるかな?」
『は?』
「連絡があってさ!プラズマ団が出たらしいんだ!!というか君も来てよ!」
『おいテメ、何勝手に』
「プレイムピアって波止場に行くからさ!!」
そう言うとモジャモジャは走ってレインの目の前から姿を消した。
『おいスイラ、さっきのモジャモジャ』
《ああ、ここのジムリーダーだろうな》
もうすでに姿を消した男。一応確認のためにジムに入って聞くと、
「ジムリーダーはプラズマ団の情報を受けて先ほど出て行きましたが…」
と返された。
『此処の奴らはチャレンジャーの事すら待てねェのかよ』
《それ、お前が言うか?》
『……』
《現在進行形でジョウトのリーグチャンピオン様は一人旅だぜ?》
『……』
《そんな奴がケチ付けんのか?》
『リーグとジムでは人の来る回数がちげーだろ』
苦し紛れの言い訳だ。
《はいはい、そうですか》
『(イラッ)』
ムギュッ
《〜〜〜〜〜〜ッ!!》
イラついたのでスイラの足を思いっきり踏みつける。スイラは痛みに顔をしかめ、その場に蹲った。
『おい、何してやがる。行くぞ』
《………》
無言で立ち上がったスイラは、まるで射殺さんとばかりに視線をこちらに向けた。
『おー、怖い怖い』
棒読みでそんな事言ってみたらさらに強くなった。