理想と真実 本
□第六話
1ページ/4ページ
『……見つけた』
ベル達を見つけたのは、ポケセンを出て約1時間後のことだった。グレンやライデンがいたにもかかわらず、うろちょろしやがって…
この大都会の中、大型のグレンやライデンを見つけることぐらい簡単だろうと思っていたのがいけなかったのかもしれない。
見つけられなかった。いったい何度、同じところを回ったことだか。途中何度か通行人を一人残らず氷漬けにしようと言ったら、
《それだけは勘弁してくれ》
と、珍しくスイラに止められた。こっちはイライラバロメーター飛び越えて爆発寸前だってとこなのによ。
オレが出す怒りに自然と周りにいた通行人が避けていく。その行動こそが正解だ。もし立て付くようなら、一瞬で氷漬けになるからな。
『オイテメェら、何勝手にうろちょろ移動してやがる』
「あ、レインちゃん!」
「お姉ちゃん!!」
『グレン、ライデン、お前らなぜ移動した』
《人間の好奇の視線があまりにも多かったもので…》
《逃げていたらいつの間にかだな…》
『ハァ…(こいつらに護衛を頼んだのが失敗だったな。もっと普通の奴にしておきゃよかった)』
そう思ってみても、今彼女の手持ちに頼れる普通の奴が存在しないのだ。
『まぁいい。戻れ』
二匹をボールに戻し、ベルにムンナの入ったボールを投げ渡す。
「わぁッ!ありがとう、レインちゃん!!」
『別に、あいつらを潰したついでだ』
目の前で大喜びするベルに、呆れてため息が出る。
「…ねぇ、お姉ちゃん」
『オレのことか?』
「そう。お姉ちゃん、強い?」
『さぁな。つーか、強いって言ったらただのナルシだろ』
「レインちゃんはねぇ、とっても強いよ!私が見たことのないようなポケモン持ってるし!」
『(違う地方のポケモンだろ、それ)』
「確実に私よりは強い!……そう言えば私、すっごく弱いよなぁ…」
『(自分で言って落ち込んでんじゃねぇよ)』
すっかり萎れてしまったベルを、隣で慰めているアイリス。こいつも大変だな。
「しっかり!ベルお姉ちゃん!…そうなんだ。ねぇお姉ちゃん、あたしとバトルしよ!」
『やだ』
「即答!?なんで?」
『めんどくさい。お前なんかの相手してやれるほどオレは暇じゃねぇんだよ』
「えぇ―――!?ヤダヤダ、バトルする!!」
一言で言うと、うざったい。なんだこの駄々っ子。こいうい人間は大っ嫌いだ。
『ベル、このチビ頼んだ。オレはもう行く』
「えぇ!?バトルぐらいしてあげてもいいんじゃない?」
「そうだよー!」
『オレは今からジムに行くんだよ。どっかの誰かのせいで余計な時間くったからな』
そう言えばう、と黙る2人。よく分かってんじゃねぇか。まぁ、モジャのせいでもあるんだけどな。
「じゃ、じゃあ!ジムに付いてく!!」
『…はぁ?』
「(怖い!レインちゃんが本気で怒ってる!)」
レインの凍てつくような睨みに気付かないアイリス。ベルと、たまたま見てしまった通行人達は震え上がっている。
“青の魔物”は視線だけで人を殺せるらしい、とジョウトで顔も名前も知らない奴らが言っていたが、あながち間違ってはいないかもしれない。
正確には、“殺す”ではなく、“震え上がらせる”だが。殺せたら今、このチビはこの場に居ない。
『お前、ウザイ。来るな』
「行くったら行く!行かせてくれないならあたしとバトルして!」
《別にいいじゃねぇかよ。見てるくらい》
『………勝手にしろ。ただし、終わったらすぐ帰れ。オレはお前みたいな人間は大嫌いだ』
“大嫌い”その言葉に一瞬凍りついたアイリスだったが、たちまち復活し、前を歩くレインの後を付いて行った。
凄い回復力である。彼女の肩に乗るキバゴは、震えて付いていくのも嫌だと拒否しているのに、だ。
「…アイリスちゃん、凄い」
後ろではあの視線に耐え、大嫌い発言さえも受け流したアイリスに感心するベルが居た。
「ベルおねーちゃーん!置いてくよー!」
「あ、ま、待ってよぉ〜!」
ベルは付いていくか一瞬迷ったが、このままいかなかったら地図を持たない自分は迷子になるだけだ。
どこか冷静になっている自分の頭でそう判断し、姿が見えなくなる前に前方を歩くアイリスの背中を追った。