理想と真実 本
□第六話
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「…レインちゃん、君はふざけているのかい?」
『まさか。至って本気だ』
「ならなぜ、こうも相性が最悪なポケモンばかりを出す」
『相性が最悪?元から此処は虫タイプのジムだろ?ウォンが出ても可笑しくない。モジャ、お前はオレに勝って欲しいのか?
ジムリーダーってのは、トレーナーの最大の壁であるべき。トレーナーに情をかけてわざと勝たせてやるのは壁じゃねぇ。
わざわざ自らに穴をあけてどうぞってか?オレはそんなの認めねぇぞ。お前は今までそうやってトレーナーを勝たせてやってたのか』
「…」
顔をそらすモジャ。
『否定しねぇのか…見損なった。お前は一端のトレーナーですらなかったんだな』
「そうじゃない!」
『じゃあ、なんだ』
「…君には恩がある。恩を仇で返すようなことは…」
『あ?恩が何だ。ジムリーダーならトレーナーぶっ潰す気でかかってこい』
バカらしい。そうとしか言えない。だからこの後に待ち構えるジムでの勝利者数が激減しているのだろう。
オレもジョウトのチャンピオンだ。全国のチャンピオンが集まり、会議をする場だってあった。その時の資料で知ったことだ。
そういやあの会議、もうそろそろあるはずだ。もうとっくに新しいチャンピオンが立ってるのかもしれない。ま、オレには関係ないが。
「…ありがとう」
『何がだ』
「やっと分かったような気がする」
顔を上げた奴の目には、トレーナーとしての心意気が見て取れた。もう大丈夫だろう。
『あー、めんどくせぇ。こんなオジサンにオレが説教くれるなんて思ってもみなかった』
「お、おじさ……」
「アーティさん!?」
駆け寄ろうとするジムで働く男を睨む。ビクッと男は震え、もとの場所に戻った。
『さっさと始めろ。いったい何度オレを待たす気だ、お前』
「悪かったね!………イシズマイ、砂かけだ!」
『飛べ、ウォン』
「打ち落とす!!」
『避けろ』
トレーナーを本気で倒そうとする。これでこそジムリーダーだ。ジョウトにいたらオレの計らいで即クビになってただろうな。
『岩なだれで拘束しろ』
「くッ!」
岩なだれでイシズマイを閉じ込める。これで動けないはずだ。
『とどめだ。ブレイブバード』
逃げ道のないイシズマイは、その一撃であっけなく地に伏せた。
「…ありがとう、イシズマイ」
『戻れ、ウォン』
共にポケモンを戻す。アーティはレインを見た。彼女は初めて会った時から不思議な感じがした。
まるで自分の心を、その双眼で見透かしてるよう。それがたまらなく怖い。
先程もそう。ボクがわざと勝たせようとしていたことを嬉しがることをせず、逆に怒って来た(貶したとも言うのかもしれないが)。
明らかに今までのチャレンジャーとは格が違った。彼女には、底知れない大きな力が付いている。そう感じ取った。
「次が最後のポケモンだ。彼はボクの一番のパートナー。今まで公式バトルで使ったことがない。強すぎてね」
『そりゃおもしれェな』
まただ。彼女はまた、ボクに……
「久しぶりのバトルだよ、ハハコモリ!」
『ドゥラ』
「…そのモノズ、まさかさっきの?」
『ああ、どれほどの力を秘めているのか試したくてな』
「初バトルだからって手加減しないよ!」
『しないでくれた方がありがたい』
「……ハハコモリ、糸を吐く!」
『火炎放射で焼き尽くせ』
素早い動作で糸を全て焼き尽くすモノズ。しかし…
「甘いね!ハハコモリ!2発目だ!」
『…やるじゃねぇか』
モノズは糸に絡まっていた。先程焼き尽くしたのは最初の一撃分。モノズの視界が炎で覆われている隙にもう一撃放ったらしい。
『そのハハコモリが強いってのは、嘘じゃねぇかもな』
「当たり前だろ?」
《久しぶりのバトルだ、はっちゃけさせてもらうぜ!!》
ハハコモリが嬉しがっている声が届いた。こりゃこっちも全力で挑むしかない。
『行けるか、ドゥラ』
《当たり前!!》
もう一度火炎放射を放ち、自ら糸を焼き切るモノズ。こいつ、自分で判断しやがった。
『今度はこっちから行くぞ。ドゥラ、ハイパーボイス』
「守だ!」
『ハイパーボイスの中に突っ込んで、ドラゴンダイブ』
バリィンッ、と音を立てて守が破られた。
「なっ!?」
『そのまま火炎放射』
《うわぁあああ!》
「…ハハコモリ戦闘不能。よって勝者、チャレンジャーレイン!!」
審判員の声がフィールドに響いた。