理想と真実 本
□第九話
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《我を呼び出すということは、今回こそそれなりに手強い相手なのだろう?》
『いや、まったく』
《…悪い。一瞬殺意が芽生えたぞ》
《それが普通だ。オレなんか毎日殺意が芽生えてるぞ》
『殺るんなら来い。いつでも相手してやる』
《《……いや、遠慮しておく/する》》
ラグナスの声は一般庶民の頭の中にも響く。何かよくわかんねぇけど、一握りの奴の声は聞こえるらしい。
「おい、あのポケモンって…」
「私、文献で見たことあるわ…」
「私も。何でもイッシュの伝説のポケモンだとか…」
「理想を求める勇者にだけ力を貸すって言い伝えだぞ」
後ろの観客が煩くなってきたので、ラグナスを足でつついて咆哮を上げさせる。それだけで観客は押し黙った。
「…また、」
『は?』
「また、無理矢理連れてきたのね!可哀想に!!今助けてあげるわ!ゼクロム!!!」
《おい、レイン》
『あ?』
《あの煩い小娘は誰だ》
『オレの元部下だ。今は自称ジョウトチャンピオン』
《あんな弱いのがか?あり得んな》
「待っててね、ゼクロム!」
『…あいつにはラグナスの声が聞こえてねぇみてぇだな』
《低能な輩に我の声は届かん》
大きなため息を吐くと、ラグナスは宙に飛び上がった。エレキブルとの差は歴然だ。
《もう始めていいのか?》
『どーぞ。安心しろ。オレは指示しねぇよ』
《物分かりのいい奴だ》
エレキブルに指示をしたラグは、ゼクロムに見惚れているのか、視線が合わない。
《すぐ終わりにしてやる》
《…》
攻撃を受ける瞬間までも、エレキブルは無言だった。
「エレキブル戦闘不能。『ゼクロム』の勝利」
レッドとの息も合って来た。
「え……いつの間に…?」
ラグの目の前には倒れているエレキブル。どうせゼクロムに見入っていたら終わっていたのだろう。
『…オレの勝ちだ』
「嘘、そんなはずないわ!」
『オマエの目は節穴か?オマエはオレのポケモンを倒すどころか、傷一つ付けることも叶わなかった。
いい加減認めろ。オマエはオレどころか、全国のジムリーダーの足元にも及ばないほど弱いということを』
「そんなはずない!証拠に、全てのジムバッチは持ってるわ!」
「…これのことかしら?」
レインの後ろから現れたシロナは、ケースの中に入っているバッチを見せた。
「そうよ!全て私が自力で手に入れたものよ!」
『いつまで嘘を吐くつもりだ』
「へ、な、何を…」
『これはお前がとったものじゃねぇだろ』
「残念だったわね。ジムバッチにはいろんな情報が入っているのよ。それこそ、誰が何時何処で手に入れたのか、とかね…」
『これは全てお前の兄が勝ちとったものだということぐらい分かってんだよ』
ラグは膝から崩れ落ちた。その目の前に立つレイン。
『セイヤ…それがオマエの兄の名だな。オレが7歳の時に戦った男。唯一オレのポケモンを三体倒した憎らしい奴でもあるけどよ』
「…」
『何故お前が奴のバッチを持ち、オレのもとへ来た』
「…兄は、旅に出たのよ。貴方に負けたから、一からやり直したいって言ってね。バッチは全て置いて行ったから、私はそれを使って…」
『楽して勝ちあがろうと思ったのか?』
「そうよ。そして…」
ラグはいきなり立ち上がり、レインの首を絞め、宙に持ち上げた。
『て、めェ…!何、しやが、るッ!』
「あはは!所詮まだ子供ね!とっくに成人した私にバトルでは勝っても、力の差はれ・き・ぜ・ん……だってなぁ!!」
『!!オメェ…!』
「やっと気付いたか?レインサン」
『オメェ、セイヤ本人だなッ!』
「そうですよー。嫌がる妹を無理矢理黙らせて、途中で入れ替わるは大変でしたが…気づかなかった貴方が悪いんですよ」
『裏庭で作戦練ってたのも、わざとだな!』
「そうですよ。貴方をここから追い出すための…作戦の1つです」
ギリギリと首を掴む手の力は増していく。ラグ……いや、セイヤが頭を振ると、かぶっていたカツラが取れた。
もとから彼ら兄妹はよく似ていた。顔の造りから全てが。それを上手く利用してラグと入れ替わったのだろう。
《離せ!》
「おっと、それ以上こっちに近づくなよ……こいつの命が惜しいならな」
《クソっ!》
どこぞの昼ドラか知らないが、一旦首を絞めるのをやめ地面に下ろすと、右腕で首を拘束し直し、左手に刃物をちらつかせた。
それによりこちらに来るのを断念したスイラ。出しっぱなしだったラグナスは、悔しさからなのか大きな雄叫びをあげた。
つかその刃物今までどこに隠し持ってた。