理想と真実 本
□第十一話
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「誰ですか、あなた」
「私はこの街のジムリーダーでモデルをしている、カミツレというものです」
「…本当に、なぜあなた達は私達の問題に首を突っ込んでくるんですか」
『オレがベルの気持ちを理解しているからだ』
「私も旅の楽しさは知ってます。だから彼女の言いたいことは理解しているつもりです」
『それに、一応旅で知り合った仲だしな』
すると父親は黙り込み何かを考えるそぶりを見せると、ベルに向き直った。
「パパは何か勘違いをしていたのかもしれない。ベルのことが心配で心配で…ベルの気持ちを全く考えていなかった。
パパの考えをそのままベルに押しつけようとしていたのかもしれないね…。ママの言っていたことが漸く分かったよ。ごめんよ、ベル」
「分かってくれればいいよ、パパ!」
ひしと抱き合う親子二人を見て、自分の両親を思い浮かべてみた。が、出てこない。
『(しょうがねぇか。物心つくときには既にいなかったしな)』
哀しい運命なんて思っちゃいない。オレの横にスイラ達が居ればそれでいいのだから。
『…んでよ、ジムリーダー』
「何?」
『オレは挑戦するために来た。だからさっさと挑戦を受けろ』
「…ずいぶんと上からの物言いね」
『オレはこーいう奴だからな。肝に銘じておけ。バカげた娘がいるとな』
自分でバカと言ったことに、スイラが《自覚してたのか》とか言いやがったので、その足を思いっきり踏んでやった。
声にならない叫びをあげるスイラを見て鼻で笑う。涙目で睨んでくるスイラなんて怖くもなんともない。
「まぁいいよ。ジムで待ってるから」
そう言い残して消えていくカミツレ。
『じゃ、オレ達も行くか』
《……》
『(こりゃかなり怒ってるな)』
怒るスイラを連れてジムに向かおうとすると、後ろから名前を呼ばれた。
「今回は巻きこんでしまってすまなかった」
「パパも分かってくれたから、また旅を続けるつもりなの!」
『あっそ、頑張んな』
「うん!」
そこで父親は去って行った。ベルはポカブのレベルを上げるとか言って、そこらへんにウジャウジャいるトレーナーにバトルを申し込みに行った。
〜ライモンジム〜
「待ってたよ」
ジムに入れば準備万端と言った様子のカミツレが佇んでいた。観客席にはカミツレのファンであろう男女がいっぱいいた。
各自、手には横断幕等を掲げ、口々に「そんな挑戦者ひねり潰せー!」とか言っている。ウザ!
「このジムは電気タイプを使うジム。飛行タイプと水タイプの子には相性最悪だよ」
『んな基礎知識ぐらい知ってる。子供扱いすんじゃねぇよ』
「カミツレお姉様に向かってなんて口のきき方をしているの!」
「口のきき方、親に習わなかったのかしら。親の顔が見てみたいものよ」
「あんな目つきの悪い子だから、きっと親もろくでもないはずよ」
「どちらにせよ、カミツレさんに勝てるわきゃねぇ。痛い目見るぜ」
「かえって清々するな」
「ホント、その通りね」
「というか、隣にいる水色のポケモン、見たこと無いポケモンね」
「ありゃ北風の生まれ変わりスイクンだ。伝説のポケモンだぞ!」
「きっとあの子にこき使われてるんだわ!」
『…うるせェ』
黙って聞いてれば人のこと好きかって言いやがって。もう一度言おう。ウゼェ。
《どこに行ってもお前は悪役扱いだな》
『お前まで言うか』
《生憎、オレは「カミツレ様ぁ!」なんて熱狂しねぇよ》
『あっそ。つーかさっきの声キモイ』
《煩い》
ギャーギャーとブーイングで煩いジムの中、一応今回出すポケモンについて考えてみる。というか、何かを考えていないと煩い。
スイラとレイキ、ウォンは相性最悪。ラグナスとレグナスはレベルがいき過ぎてるし、出すと大騒ぎになりかねない。
……となると、出せるのはラークとドゥラ、オウガの三体だ。
「この化け物!」
考え込んでいる最中に、いつの間にそういった話になったのか。観客全員で化け物コールだ。
「これでもくらえ!」
投げられたのは中身の入ったコップ。…おい、前にもこんなこと無かったか?
《ハァ、お前はつくづく損する体質だな》
今回もスイラが中身ごと凍らせた。
「皆さん、彼女を悪く言うのはやめてください。彼女は私に挑戦してきたチャレンジャーです」
カミツレがそうとだけ言うと、今まで騒がしかったジム内が静寂に包まれた。宗教かよ。
「ごめんなさいね」
『別に。慣れてるからかまわねぇよ。まぁ…凍らされなくてよかったな?もうそろそろオレもキレるとこだったし』
静かに言うと、ジム内はいろんな意味で凍りついた。
「こ、これより、ジムリーダーカミツレ対チャレンジャーレインのジム戦を始めます!バトル、開始!」
たどたどしく審判員が言葉を口にし、両者最初の一体がフィールドに放たれた。