理想と真実 本
□第十二話
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「…自分が追い詰められているのがそんなに嬉しいんだったら、キミ、イイ趣味してるね」
『そりゃどーも。でもよ』
「?」
『必ずしもオレが追い詰められているとは限らねぇよ?』
「何を言ってるの?水タイプは電気タイプを、」
『誰がいつ、オレが出したのが水タイプだって…“ダイケンキ”って言った?』
シャドーボール
聞こえるか聞こえないかの音量でそう呟くレイン。皮肉にもその声はカミツレには聞こえていた。
「はは、ダイケンキがシャドーボールを使えるわけ『無いわけじゃねぇよ』…そんなバカな」
ダイケンキのシャドーボールによって、自分の横すれすれを吹っ飛んで行ったゼブライカ。ハラリ、と髪が舞う。
「えっ!?ゼブライカ!!」
《なんの…まだまだぁ!!》
『へぇ。まだ立ってられんのか』
ジムの壁に叩きつけられたゼブライカだったが、まぁそこはジムリーダーのポケモンと言ったところか。
「ダイケンキはシャドーボールを覚えられたかしら…まぁいいわ!!ゼブライカ!もう一度ボルトチェンジ!!」
『向かい撃て。火炎放射』
「っ!(火炎放射?!ダイケンキが…)」
「…ゼブライカ、戦闘不能。よって勝者、チャレンジャーレイン!!」
審判員の声は高らかになり響く。
「こんなことが」
『種明かししてやるよ』
ダイケンキの横に来たレインは、おもむろにダイケンキを叩いた。すると、
《何すんだよ!》
「ゾ、ロア…?」
『ああ、そうだ。さっきのダイケンキはオレの手持ちに化けたラーク… ゾロアだ』
「そういうことか」
ようやく納得いったようで、壁に寄りかかり倒れているゼブライカをボールに戻す。
「…これはボルトバッジ。それとこれを…」
『技マシン?』
「中身は“ボルトチェンジ”どういう技かは…分かってるよね?」
とりあえず頷くと、カミツレはジムの奥に消えていった。
「あの小娘…… カミツレ様を泣かせた!」
「今すぐ謝って来い!」
「土下座だ!」
その言葉を皮切りに土下座コールがジムに鳴り響く。
『…うるせぇよ!』
とうとうキレたレインが大声でそう叫ぶ。
『何が土下座だ、あぁ?アイツはオレに負けた。それだけのことだろ?』
「あれはお前に手加減してくれただけの話だ!」
「そうだ!カミツレ様がお前みたいな下種に負けるわけがない!」
『…おい、今オレのこと下種って言ったヤツ前に出てこいよ』
そう言えば意外とすんなり出てきた。外見はただのお姉さんだ。
『一応聞いておくけどよ、お前はオレより強いとか思ってんのか?』
「カミツレ様には劣るけど…あんたみたいな奴よりは強いわよ!」
『じゃあ…試してみるか?』
「望むところよ!!」
出したのはジャローダ。
《オレに行かせろ》
『出そうと思ってた。まぁいい、行け』
前に出たのはスイラ。
「ふふ、ジャローダ!リーフストーム!!」
「リーフブレード!」
「ハードプラント!」
「グラスミキサー!!」
一通り技を受け終える。というか技の種類が草タイプだけ。ずいぶんと偏っているものだ。
『なぁ、もういいか?』
「え?」
『お前の気は済んだかって聞いてんだよ』
リーフストームで巻き上がっていた土煙が引くと、そこには無傷で立っているスイラ。
「え、あれだけくらっておいて、無傷!?」
『スイラ、アイアンテール』
命中率の低いはずのそれがジャローダにクリーンヒット。ジャローダはお姉さんの横を吹っ飛び、壁に激突した。
『まだ分からねぇか?お前とオレとじゃ………レベルが違う』
「ひっ」
お姉さんはジャローダをボールに戻すと、一目散に逃げて行った。
『まだオレに文句のある奴は出てこいよ。…………再起不能にしてやる』
その言葉に恐れおののいた観客は、我先にとジムから出て行った。
『なんだよ、つまんねーな』
《おい、腹減った》
『……ポケセンに戻るか』
こうしてライモンに住む者(一部のカミツレファン)の心に恐怖を植え付けたレインは、何事もなかったかのようにジムを後にした。