理想と真実 本
□第十四話
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「……」
「……」
二人が立ち去った後、茂みの中から二人組が姿を現した。全身が黒ずくめで、かぶっているフードで表情はうかがえない。
二人組は茂みから出てくると、当たりを警戒するように見渡す。
「全方位確認。危険人物0」
「…連絡をしろ」
「了解」
そのうちの一人がマントの中から黒いグローブに覆われた手を出し、耳に当てる。イヤフォンでもつけているらしい。
「…ワタシ、190。実験体00、発見。場所、イッシュ。スイクン、居る。我々、ここ、居る、向こう、分かる、ない」
機械的な話し方で相手に情報を伝える。
「……了解。任務、遂行」
耳から手を離すと、隣にいたもう一人に視線を送る。
「…総帥、ころ合いまで手は出すな。仰せられた」
「分かっている」
連絡をしていない方がフードを取り払った。髪は特徴的な赤で、瞳も赤い。
「8、姿、ばれる。フード、取るな、総帥、言った」
「お前はいちいちうるせーよ。少し黙ってろ」
「…」
赤髪にそう言われると、自分を190と名のった声色からして男と思われる人間は黙った。
「ッんと、まだ開発途中の実験体は感情と口調が定着してなくて困るぜ。つーかオレらより機能落ちてね?」
一人でそう言うと、フードの中から右腕を出す。190とは違いグローブをつけていない腕には特徴的な刺青のようなものがあった。
その入れ墨はまるで炎のような形を模しており、右腕一面を覆いつくすように存在していた。
また、刺青に沿うようにしてところどころに手術痕のような縫い跡が生々しく残っている。
「ホント、00は羨ましいぜ。オレらみたいなこんなもんを付けなくても力を持ってんだからよ」
憎らしげに吐き捨てると、側にあった石に乱暴に腰を下ろした。
「190」
「…」
「返事ぐらいしろよ」
「さっき、黙れ、8、190、言った」
「あー、ウゼェ。まあいい。お前は今からナギサと名乗れ」
「ワタシ、190、ナギサ、違う」
「だから、………あークソっ」
イライラが最高潮に達したのか、赤髪は座っていた石に右腕を振り下ろした。
「……いいか、オレの言うことをきかねぇようなら、次はお前をこうする」
彼の足元には、ドロドロに溶けた石のなれはてがあった。
「……わかった、ワタシ、今、ナギサ。190、違う。ワタシ、ナギサ」
「よし、それでいいナギサ。フードを取れ」
フードを取り払うと、中から出てきたのは黄色い髪をした幼い少女だった。目は赤髪とは違い、生気を灯していない。
まるで操られている人形のような幼い少女は、カタカタと震えながら赤髪を見上げていた。
「ナギサ、言うこと、聞く。だから、消さないで、お願い」
「オレの言うことちゃんと聞くならいいぞ」
「聞く、聞く」
「聞く」を連呼する少女の頭に手を乗せ、「分かったから黙れ」と言う。ピタリと声は止まった。
それに満足げに頷くと、少女の髪をワシャワシャと撫でた。まるで、兄が妹にするかのように。
「それでいい、ナギサ」
「…」
「それといいか、オレのことはこれからレンと呼べ。くれぐれも8などと呼ぶなよ」
「分かった」
「オレらの正体が向こうにばれるわけにはいかねーからよ」
そう笑った赤髪、もといレン。
「おい、ナギサ。行くぞ」
「発動、する、?」
「ああ」
レンの言葉にナギサは頷くと、黒いグローブを取り払う。そこにはレンと同じような刺青があった。
少し違ったのはその模様で、まるで雷を模したような模様をしていた。
「何に、なればいい、?」
「空を飛べる奴にしとけ」
「了解」
両手を合わせ、ブツブツと何かを小声で唱える。すると右手の模様が光り出し、ナギサの体全体を覆った。
刺青はその後も光り続け、ついには光でナギサを包んでしまった。形は球体で、表面にはあの模様が描かれている。
ピキッ
突如、表面にヒビが入る。それは次第に範囲を広げていき、ついに球体は崩れ出した。そこから姿を現したのは
「…これで、いい、?」
「ああ、十分だナギサ」
サンダー。先程まで居たナギサは跡かたもなく消え、後にはサンダー一体が居た。そのサンダーの右翼にはあの模様が描かれている。
それとレンがナギサと呼ぶことから、このサンダーこそがナギサなのだと判断できた。
「ったく、面倒だよな。オレ達はこうしねーと奴らになれねーんだからよ」
慣れたようにサンダー(ナギサ)に飛び乗る。
「どこ、行けばいい、?」
「支部に戻るぞ」
それに頷くと、両翼をはばたかせて彼らは飛び去って行った。そのことにレインが気付く訳もなく…。