理想と真実 本
□第十五話
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『やっぱ、流石に待っててくれるってのはねーか』
跳ね橋はすでに下がりきっていて、周りには管理者ぐらいしかいない。
《あの小僧にさき越されたな》
『だな』
《どういう気分だ?》
『別に』
答えになってねーよと隣で喚くスイラを完全無視し跳ね橋を渡りきる。すると、目の前になぜかもめている様子のチェレンと……
『誰だ?』
《…はぁ。あン時いたろ?》
『あー、居たかもしれねぇ』
とりあえず面倒事に自ら首を突っ込む気はないので、さも知らないフリを装ってわざわざ遠回りで避けた。のだが、
「レイン!ちょっといい」
『チッ』
《ホントお前ってツイてねーよな》
なぜいつも見つかるのだろうか。仕方がないのでチェレンの横に行く。
『(…んで呼びやがった。無視してくれりゃあよかったんによ)』
「(…ちょっと厄介になってるんだよ)」
「…お前は…」
『……名を聞くときはまず自分から名乗るもんだろ』
そう言い返すとジムリーダーであろう人が深いため息をついた後、大きな舌打ちをした。
「これだから最近の若モンは…俺はヤーコン。ホドモエのジムリーダーだ。ほら、お前の番だ」
『…レイン』
「でもってジョウトの現チャンピオン、でしょ」
「それぐらい俺も知っている。あのときに見かけたからな」
そう言ってまた大きな舌打ちを打つ。
『(このオッサン、うぜぇ)』
「とりあえずさっき話した通り、プラズマ団が逃げたのはお前らのせいだからだな」
『プラズマ、団、だと…?』
「お前ら知り合いだろ?」
「知り合いではないよ」
『厄介ごとによく巻き込まれるだけだ』
「まぁとにかく」
ヤーコンは帽子をかぶり直し、オレらに向かって死刑宣告を言い渡す。
「とりあえずお前ら、プラズマ団を探してこい。ジム戦はそのあとだ」
『はぁ?ふざけんじゃねぇよ。こっちはあいつらなんかと二度と顔合わせたくもねーっつーのによ』
「同感だね。そもそも僕らが捜さなきゃいけない理由がない」
「お前らが橋を降ろしたせいで逃げたって言ってるだろう。それで十分な理由になる」
理不尽にもほどがある。
『それはオレらのせいじゃねぇ。そもそもお前の管理がちゃんとなってなかっただけじゃねぇのか?
橋が降りたぐらいで逃げられるほどの隙を見せた。それはオレらの責任じゃなく、お前らの管理責任だろ』
「ごちゃごちゃ言ってねーでさっさと探してこい」
うっと詰まった後、極まりが悪そうにヤーコンはそう吐き捨てた。
『んなあてつけみてぇな理由でジョウトのチャンピオン様を動かすのか?』
「…ここはジョウトじゃねぇ、イッシュだ。イッシュのチャンピオンはアデクで、お前はただのトレーナーだ。
トレーナーはトレーナーらしくジムリーダーの言うことを黙って聞いてりゃいいんだよ」
『んな犬みてーなマネができるか』
「チッ、ホント最近の若モンは躾がなってねぇな?親の顔が拝みてぇもんだ」
そうヤーコンが言った途端、レインのまとう雰囲気ががらりと豹変する。
《ッ!ヤベェ!!静まれ、落ち着くんだレイン!!》
スイラが慌てた様子でそう言うも、もはやレインの耳には届いていない。
『親の顔が、拝みたいだと?』
「ああそうさ。お前みたいに育てるにはいったいどういった教育方法をするんだろうと思ってな」
《オッサンはもう黙ってろ!!火に油を注ぐような真似をすんじゃねぇ!!》
スイラの叫びも、ヤーコンには鳴き声にしか聞こえない。
『オレの親なぁ…。見れるもんならオレが見てみてぇよ。一体どういうヤツなのかをよ』
「お前……孤児か?」
『さぁな。お前にそこまで教える義理はねぇ…。まぁいい』
握りしめていた手を解くと、ヤーコンを見る。その時風が吹きフードに隠れた顔がちらりと覗いた。
赤い瞳が一瞬二人に露わになった。静かに息をのむ音が聞こえる。
「レイン……その、目……」
『……気にすんな』
「……病気か?」
『はっ、自前だよ』
「…」
『気味わりぃだろ?』
静まった空間。居心地が悪いのはいつものことだ。
『隠してたんだがバレたならしょうがねぇ。離れてぐでも何でもすりゃいいさ』
そう言い残し、レインはその場から離れた。