理想と真実 本

□第十五話
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「な、仲間の恨み、ここで晴らしてらりゅ!」


『おーい、呂律まわってないぞ』


「う、うるへぇ!」


「お、お前、よよよよくそんな薄着で、さ、さ、寒くないな!!?」


『(聞き取りずれー…)』



こんなのに負ける気がしない。



「ゆけ、『やっぱ面倒。凍らせろ、スイラ』ほへっ!?」


《えー、なんでだよ!オレ戦いたかったのに》


《私も!》


『うるせー。寒いんだよ』



完全に凍った下っ端を横目に、七賢人のもとに近づく。



「な、なんだ!」


『お前が付き従う王はどこにいる』


「え、Nさまのことか?!」


『そうだ』


「なぜそんなことを聞く」


『なぜ?そんなの…』



理由を答えようとした時、コンテナの扉が開いた。チェレンとヤーコンだ。



「レイン!見つけたんだね!」


「…お前ら、捕まえろ」



その指示とともにヤーコンの後ろから次々に現れるのは、きっと冷凍コンテナで働いている人間だろう。
各自持っている縄で2〜3人ずつ繋ぎ、次々とコンテナから外へ出て行った。



「おら、お前もだ」


「クソ…」



最後に残った七賢人も、ヤーコンに連れられて出て行った。



「…レイン」


『…』



彼らに続いて自分も出ようと、名を呼ぶチェレンを無視し横を通り過ぎようとした。



「…待ってよ」


『…待っても何も、手ぇ掴まれちゃ待つしかねーんだけど』



つーか寒い。お前長袖だけどよ、オレ半袖なんだよ。



「……その、悪かった」


『あ?何がだよ』


「…君の目、一瞬気味が悪いと思った」


『んなの当たり前だろ。髪は水色のくせして目が赤いなんて、【化け物】でもない限りねぇだろうしな』


「……」



黙ったな。図星か。



「……でも、遺伝なのかもしれないだろう?」


『正直オレもそうだと思いてぇよ。だがこれは遺伝じゃねぇ』



オレの元の髪と瞳の色は……。



『…お前に話しても意味ないな。さっさと手を離せ』



「っ!君はいつもそうだ!辛いことをすべて自分の中に閉じ込める!!」


『それの何が悪い』



チェレンの掴む力が強くなる。腕が軋んだ。



「話してくれてもいいじゃないか!ボクらは…」


『仲間だろ、とでも言うのか?』


「だって、そうだろう?」


『仲間、ねぇ…。一体何をしたら仲間になるんだろうな。生憎オレはこの世に信じられる【人間】はいない』


「え……」


『いつの世でも先に裏切るのは人間だ。だからオレはポケモンといる。奴らはオレを裏切らない。ともにいてくれる。
オレの持つポケモンは殆どが昔何らかの迫害、裏切り、そのほかいろいろを人間から受けた奴だ。だからオレは……』



そこで一呼吸おく。



『人間が、大っ嫌いだ』



掴まれている腕の力が緩んだ。チェレンの腕を払い、掴まれていたところを掴む。少し痛い。



『分かったか?オレはこういう人間だ』


「…」


『じゃぁな。ま、もう二度とあわねぇ気もするけどよ』



そう言い捨てコンテナを出る。追いかけてくる気配は、なかった。



『(いいんだ、これで。いいんだ…)』










「…」



レインが完全にコンテナの外に出てから、チェレンは払われた己の腕を見た。



「(人間が、大嫌いか…。自分も人間のくせして)」



思えば彼女が自分から人と共に行動していたところを見かけていない。いつも彼女についていく人間ばかりだ。



「裏切りに対してああも敏感だということは、あの娘、何か昔あったのかもしれねぇな」


「っ!…ヤーコンさん。一体いつから…」



「人間が大っ嫌いだとあの娘が言った時からだな」



その後しばらく沈黙が続いた後、ヤーコンが出るぞと呟き、チェレンもそれに頷いてその場を出た。




  
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