理想と真実 本
□第十七話
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『……オレだ』
―「…第一声が“オレだ”って…。普通の人が聞いたらすぐ電話切られるよ」
『じゃあお前は普通じゃないんだな』
案外森の奥深くまで来てしまっていたようなので、スイラの背に乗りながらワタルとポケギアで話している。
―「……で、君から電話があるってことは」
『ああ………見つけた』
ちょっと待って。そう呟く声が聞こえた後、ガサガサと移動する音が聞こえる。きっと人気のないところに向かっているのだろう。
―「………今イッシュのどこだい?」
『ホドモエだ』
―「何人見たんだい?」
『アレは見たっていうより、気配を感じたんだな』
―「気配?」
『ああ。エンテイとライコウに化けて、オレらの近くを通り過ぎて行ったんだ』
―「エンテイ…。その二匹はもう君が」
『ああ。捕まえている』
森の一歩手前まで出てきていたのを、スイラに指示して少し戻らせる。
―「それじゃあ」
『オレ以外の“実験体”が増えているのは確かだろう。』
―「…」
『“0”であるオレのデータをいくら取ったのかは知らねぇが、確実に数を増やしているのは間違いない』
―「…レイン」
『なんだ』
―「君の腕は、何か反応を示しているのか?」
そっと、あの刻印が刻まれている左腕を、包帯の上から撫でる。
『いや。なんともない』
―「本当だな?」
『なんもねぇって』
―「ならいいが…。とりあえずイッシュを重点的に調べてみる。何かあったらすぐ連絡しろ」
『了解』
ポケギアの電源を切り、バックにしまう。
《…もういいのか?》
『ああ。出るぞ』
スイラの背から降り、ジムへの道をまっすぐ進んでいく。ジムが見えてきたとき、その前に人だかりがあるのが見えた。
『…なんだ?』
《……奴らだ》
警戒するように唸るスイラ。
「…お前か」
その声にヤーコンが振り返る。ヤーコンがどいたことにより、後ろの人物の顔がはっきりと見えた。
『…ゲーチス』
「おやおや、ワタクシの名前を憶えていてくれたとは」
『ある意味忘れられねぇからな』
「それは何よりです」
わざとらしく両腕を少し掲げる。そのままヤーコンに顔だけ向き直る。
「それでは、ワタクシたちはここで」
「チッ」
ゲーチスは捕まっていたはずのプラズマ団を後ろに従え、オレの横を通り過ぎる。しかしゲーチスだけはオレの横で止まった。
「もうそろそろ、あなたを迎えに来るらしいですよ」
顔はこちらに向けず、ただひたすら前だけを見つめる両者。
『…何がだ』
「その左腕の刻印を掘った人達…、言ってしまえばあなたの両親がですよ」
その言葉に前に向けていた体をすべてゲーチスに向ける。
『テメェッ!なぜそれを知っている!!』
「何故?そんなのワタクシがあなたの両親が運営する組織と繋がりがあるからに決まっているじゃないですか」
『なっ!』
「ご両親が心配されていますよ?なんならワタクシが連れて行って差し上げましょうか」
伸びてきた手。レインはあまりのことに反応できないでいた。
「ッ、おっと」
《コイツに近づくな!!》
『スイラ…』
「煩いですねぇ。まぁいい。別に連れてこいとは言われませんでしたしね。まぁ」
動揺が隠し切れない赤い瞳を見据えながら、ゲーチスは残酷な言葉を吐く。
「連絡をしろとは、言われましたが」
『ぅあ…ッ』
《ッ!ゲーチス、テメェ!!》
スイラガたまりかねたように攻撃するも、ゲーチスは軽々と避ける。
「それではまたお会いしましょうね。……0」
『その名で、オレを、呼ぶなぁああああああ!』
狂ったように叫んだレイン。それを見てゲーチスは嗤った。