理想と真実 本
□第十七話
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『あぁああああああッ!』
なおも狂ったように叫んでいたレインは、突然ゲーチスに襲い掛かる。
「おや」
かなりの速さで突っ込んだにもかかわらず、それさえも軽々と避ける。
『ぐるあぁあアアァアアッ!』
衝撃でフードは取れ、その赤い目が野ざらしになる。瞳孔は開き、本物の獣のようだ。
「本当に、化け物ですね、君は」
『うるせェ』
「聞いた話では元の髪はその色ではなかったとか」
『うるせェ』
「ポケモンと話せる能力のせいでいろいろとあの組織にされたのでしょう?」
『うるせェ』
「うるせぇ、しか話せないんですか?」
『うるせぇって言ってんだろうがぁあアアァアッ!』
またもや襲い掛かるレイン。しかし今度は勝手が違っていた。
《なっ、レイン!!ダメだ、止めろ!!!》
『グ、グルルルァア…』
赤い光が体を包み込んだかと思うと、一瞬にして彼女はウィンディへと姿が変わっていた。
「え…」
「な、に?」
後ろにいるチェレンとヤーコンが息を飲むのがスイラに聞こえた。そこへ
「どーしたの?なんかすごい声が聞こえたんだけど…ヒッ!」
運が悪いことにベルまでもがやってきた。普通よりも一回り大きいウィンディに腰を抜かしてしまう。
《クソっ!レイン!!》
『<ガルルァ、ガァアアァアアッ!>』
もはや周りの声など聞こえてはいないようだ。そんな様子にゲーチスはまた笑うと、部下とともに姿をくらませた。
《ッ!アレは…》
途方に暮れていたスイラが見つけたのは、ポケギア。レインがとびかかった際に落ちたのだろう。
《そうだ!!》
ポケギアに飛びつくと、すぐさま電源を入れお目当ての番号を見つける。
《(レインが前にこうなった時、止めたのはコイツだけだ…!頼む、出てくれ…!)》
数コール続いた後、「…はい」不機嫌そうな声が聞こえた。
《オレだ!頼む!!レインを助けてくれ!!》
電話口に向かってそう叫ぶ。がしかし、生憎スイクンは人間の言葉をしゃべれない。吠えている声が聞こえるだけだ。
―「…スイクン?」
《そうだ!!》<ガウ!>
―「もしかして…レインに何かあった?」
《よくわかるな!早く来てくれ!!》<ギャウァ!!>
―「……すぐ行く」
プツリと電話は切れたものの、なんとか通じたことにまず一安心だ。
《(あとは…)》
目の前で狙うべき獲物が消えたレインが、赤い目を爛々とさせながらあたりを見回している。
本物のウィンディのようなその姿。他の2人は恐怖でそこから一歩も動けない。ヤーコンは冷静にもポケモンを出して攻撃を防いでいる。
《静まれレイン!!》
『<グルル…グゥアアアアアッ!>』
《チッ》
口を大きく開いたかと思うと、火炎放射を仕掛けてきた。もう理性などというものは存在しないらしい。
《(早く来い赤いの!)》
火炎放射をよけ、うずくまっている3人に当たらないよう細心の注意を払うこと数分。
「……スイクン?」
《やっと来たか!!》
リザードンに跨るレッドが姿を現した。その後ろにはなぜがグリーンもいる。
「……スイクン。まさかとは思うが、あのウィンディがレインだとは言わねぇよな?」
《いいや、そうだ》
分かるように大きく首を縦に振ってやると、グリーンの目が見開かれた。
「おいおい、ああなったのはかなり前だが、そんときゃリザードだったよな?かなりパワーアップしてんじゃねぇか」
「……」
「あ、おい!レッド!?」
リザードンから降り立ったレッドは、そのまま唸り続けるレインの目の前に立った。今にも噛みつきそうな勢いだ。
「………もう、大丈夫」
『!?』
「…戻れ」
手を伸ばしてその額に触れた瞬間、またもや赤い光が発せられ、静まった時にはもうウィンディの姿はなかった。
「な、なんだったんですか……今のは」
「あのポケモン……レインちゃんだったの?」
状況が呑み込めていない2人。ヤーコンはため息を吐き、レッドの腕の中で気を失っているレインを見た。
「あー、これってオレが説明してもいいんだよな?」
「…知らない」
「……まあいいか。とりあえず……場所移動しようぜ?」
その言葉に頷いたのは言うまでもない。