理想と真実 本

□第十九話
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《いったー…》


『油断するな、ラーク!』


「おせぇぞ。地ならし!」


《うぁっ》



モロに食らった地ならしはかなりのダメージだ。



『ラーク、油断するなと言ったはずだ』


《ご、ごめ…》


『いい、もう戻れ。オレの脇でこれからのバトルを見ていろ』


《…ごめん》


「……さっきから随分と酷い物言いだな」


『……オレは今、機嫌がわりぃんだ』


「………あのことか?」


『うるせぇ』



ラークが横に来たことを確認すると、再びボールを掴む。



『行け、ウォン』


「ウォーグルか。さっきそのゾロアが化けてたのはコイツか」


『まぁな。コイツはここに来てから初めてのパートナーだ。いろいろと学ぶものもあるだろ』


《…うん》



しゅん、とうなだれるラークを見て小さくため息をつく。こんなことでへこんでもらっては困る。



「ガマガル、上に向かって濁流だ!」


『避けろ』


《分かりました》


「ちい、ちょこまかと!」


『コイツはスピードと攻撃力が売りだからな』



再び対峙する両者。数秒の間のにらみ合いが続く。



『岩雪崩』


「アクアリング」


《回復系ですか、ウザったい》


《フハハハ、一筋縄でいくと思うなよぉ!》



随分とムカつくヤロー(ポケモン)だ。



『ブレイブバード』


「濁流!」


『…威力を上げて突っ込め』


《え、濁流の中には岩とか大木とかが…》


『黙ってみていろ。…ウォンは攻撃、スピードもすごいが、防御力もすごい』


《ラーク、僕を見て学びなさい。主の役に立つために》


《…うん》



濁流の中に青白い光をまとったままウォーグルが突っ込んでいく。それを見てガマガルが濁流の威力を上げた。



《俺様に真正面から突っ込んできて勝てると思うなよ!》


《……それは、僕のセリフですよ。まぁ、突っ込んでいるのは僕の方ですが》



ドォン、という爆音とともに土煙が立ち込める。



《ど、どっちが…》


『オレのポケモンが、やられるわけがねぇだろ』


「…大した自信だな」



土煙の向こうからヤーコンの声が聞こえる。



『フ、当たり前だ。オレが負けるなどありえねぇ』


「………ガマガル、戦闘不能!勝者、チャレンジャー!!」


『ほら、な?』


《ウォン、あんな中に突っ込んでいったのに…》



無傷だなんて、ありえない…。ラークの呟きにレインはニヤリと笑った。



『オレのパーティーのほとんどはほぼ“何か”ワケありモンばっかだ。覚えておけ。お前みたいなのはここじゃ珍しいんだぜ?』


《僕は…普通?》


『お前は“何も”されてねぇだろ?“連れ去られた”は何かされたに入らねぇよ』


《え……》


『何かされたってのは……』



実験のモルモットにされることだ。ボールに戻される一秒前。ラークの大きな耳には確かにその言葉が入り込んできた。



『よくやった、ウォン』


《お褒めにあずかり、光栄です。それと、ラークのことですが…》


『あれぐらい言っておかねぇとな…。アイツは普通すぎた。オレらの中で浮くのはしょうがねぇ』


《しかし…伝えなくてもよかったのでは》


『オレに歯向かうのか』


《そう言うわけでは…》


『…分かっている。伝えねぇと、ここではやっていけねぇんだ』


《……分かりました。では》



ボールに自ら戻っていったウォン。それを悲しげに見つめた後、ヤーコンの方を向いた。




  
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