理想と真実 本

□第二十話
2ページ/2ページ






《…いいのか、あいつらにあんなに情報を与えて》


『情報?何のことだ』



ジムから出てワタルに見つからぬよう森の奥深くの湖に来ていた二人。



《お前の事情…赤髪野郎にも教えてねぇんだろ?なぜあのタイミングで教えた》


『オレの勝手だろ。お前にそこまで干渉する権利はない』


《レイン!!》



牙を剥き、本気で起こるスイラにため息をつく。



『お前はオレがこういうヤツだと承知の上でついてきたんだろ?なら何で今頃それについて言及する』


《わりぃか》


『わりぃな。オレは干渉されるのが嫌いだ』



近くの石に腰かけると、そのそばにスイラも伏せた。



『不思議だな』


《何がだ》


『オレはお前になぞられて手を加えられ、作られたモノだ。なのに考え方がこんなにちげぇ』



つか、お前よりも強い奴、ごまんといると思うんだがな。



《なんだと!》



オレを愚弄するのかテメェ!と叫び、眼を鋭くしていくスイラ。本気の殺気がくすぐったい。



『殺気をしまえ』


《殺気を殺気ととらえてねぇくせして…!》


『殺気で怯えてたら戦えねぇだろ』


《確かにな…》



会話が一度途切れる。



『なぁ』


《なんだ》


『奴ら、どう動くと思う』


《…すぐには動かねぇだろ。動けるモノが一体いくつあるのかしらねぇがな》


『増えているのは間違いない。あの時持って行かれた血と肉片が……使われているのが気味わりぃな』



無意識に左腕をさする。痛みはないが、あの時の痛みが蘇ってくるようだった。



『……スイラ』


《…ああ、そうだな》


『お前の予想は外れだ』


《結構いい線いってると思ったんだがな》



特に打ち合わせるでもなく二人同時に立ち上がると、揺れる草むら。



『いい加減出てきたらどうだ?』



レインの言葉が止まる前に草むらから三つの影が出てきた。



《…おい、こいつら……》


『そうだな』



体のほとんどが黒い布で覆われてはいるが、原色のままの瞳の色と、布の合わせ目から覗く瞳と同じ色の痣のようなもの。



『実験体(モルモット)だ』



その場に一陣の風が吹く。体に巻きつけられていただけの黒い布はその風によって吹き飛ばされていった。
露わになる三人の姿。伸びきり汚れた白い服をまとい、手足を鎖で繋がれている。数年前の自分と酷似していた。



『何の用だ』


「もど、こい」(戻ってこい)


「そう、す…のね…い」(総帥の、願い)


「とも、に…な、ば………零」(共に…w)


《聞くな!!レインッ!!》



ゆらりと揺れたレインの血のような瞳。三人の持つ緑と青と桃色の瞳とかち合う。その瞬間、彼女の口元が大きく歪んだ。



『誰がテメェらなんぞと行くか。あんな腐った場所、死んでも行きたくねぇな。帰れ』


「それ、でき……い」(それはできない)


「そ、すい、こ、ば」(総帥の言葉は)


「ぜ…っい」(絶対)


『なんだお前ら…………死にたかったのか?』


《レインッ!!!!抑えるんだ!!止めろ!!!!》


『煩いスイラ。…一度暴走したからなぁ、そう簡単に力は使えねぇよ』



一度バックの底にあるボールに手を伸ばしかけたが……その手を引っ込めた。



『もう一度言う。帰れ。聞けないようなら……殺す』


「そ、すい、こと、ば…」


「ぜ、た…」


『そうか…なら』



命令するまでもなく、スイラの口元に光が集まる。



『消え失せろ』



手を前に伸ばした瞬間、スイラの口元から光が放たれた。



『……オレは破壊光線のつもりだったんだが』


《殺してどうする。情報を聞き出せるいい人質だ》


『あのなぁ……コイツらは口を割らねぇよ。いや、割れない』


《は?》


『ほら、よく見てみろよ』



凍りついた三人の鎖が赤黒く光り輝いた瞬間、氷がはじけ飛び、三人は地に伏した。息はない。



《どういうことだ!?》


『情報を聞き出さされそうになると、自動的にこと切れるようになってる』



コイツらの命はその鎖と、心臓に埋め込まれた連動するチップに握られている。遠隔操作のきく優れものだ。



『行くぞ』


《コイツらは…》


『じき土に還る』


《は?》


『分子レベルに分解されるんだっての。数分すればその場には何一つのこんねぇだろ』


《…親が捜してただろうな。こんなちいせぇのに》


『…探してくれる親なんかいねぇよ、コイツらには。実験体に選ばれるのは乞食や捨て子、売られた子供だけだ。
人攫いなんぞしたらそれこそ組織を表舞台に引きずり出される危険が高くなるだろ。お前は何にもしらねぇな』


《………》



気まずい沈黙だけが、二人の間を流れた。後ろに倒れ伏していたはずの三人の姿は、もうすでにどこにもなかった。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ