理想と真実 本
□第二十二話
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最後に残ったのは南東。今まで回ったとこで感じた気配より、何倍も強い気配を二つ感じる。
その他にも八つの気配があるが、こちらはそれほど気配は強くない。
『…この気配…まさか、な』
《そのまさかじゃねぇか?》
『………奴らか』
《その線は強いぞ。この気配は長く力を埋め込まれた奴の気配だ》
『つか、気配多くねぇか。しかもどれも今までに感じたことの無い気配ばかりだ。コアを埋め込まれてるわけじゃねぇのか…?』
《その線は強いかもな。どれもこれも…伝説のポケモンの気配が微妙にする》
『………なんだと……?』
《奴ら、とうとう禁忌にまで手を出したか。ポケモンの細胞を人に埋め込むとはな…》
グッと手を強く握りしめた。自分だけならまだしも、大切な仲間にまで奴らの手が及んでいると思うと、やるせなかった。
《だが、伝説のポケモンたちは皆お前の元に集っているはずだ。どこで細胞を手に入れられる…》
『………まさか』
《どうした?》
『(まさか…“アイツ”が向こうに味方してるのか…?)…スイラ、飛ばせ』
《…分かったよ》
気に食わなそうな顔をしつつ、スイクンはスピードを上げた。
「お、近づいてきてる」
「ナンバ、0…?」
「あぁ、そうだ。オレ達の“元”になった奴だよ」
「総帥の、命…達成、でき、る」
「そうだなぁ?つか、漸くちゃんと話せるようになってきたか」
ここまで来るのにどんだけかかってんだよ、と大きなため息を吐いた。
「しっかしあの死にかけジジィの奴、つっかえねぇ奴ばっかよこしやがって…」
「ダメ…総帥、悪く言っちゃ…」
「あぁ?いーんだよ別に。どうせ罰せらんねーし?」
「それで、もだ、め」
「うるせーよ」
使えないとは本当のことだ。何せ1000番台のため力もうまく定着していないしうまく使えない。
おまけに意思疎通ができないときたら、これはもう不良品の他ならないだろう。
「せめて3ケタ台よこせよなぁ…つか、ナギサ……コイツらに埋まってるのは、本当にコアか?」
「…それは、言えない」
「それも“総帥の命”かよ」
「そう……。レン、来る、よ…」
「チッ…おいテメェら」
使えない1000番台の実験体に視線だけを向ける。コイツらからはどうもコア以外の気配が流れ出ている気がしてならない。
ナギサに無理やり吐かせることもできるだろうが、あまりそういう手をコイツには使いたくないしなぁ…。
「オレはお前らがどうなろーと知ったこっちゃねぇ。自分の身は自分で守れ」
「総帥の命、守る、こと…。総帥の命は、絶体」
「まぁ、せいぜいオリジナルに瞬殺されねぇようにすることだな」
返事は期待していない。返っても来ない。相変わらず目は死んだ魚のようにくすんでいる。
「あーもー…ジジィらは何を研究してんだよ…全く進歩してねぇじゃねぇかよ…。研究所帰ったら文句言ってやろ」
「研究、邪魔しちゃダメ」
「あーはいはい。………ほら、お出ましだ。来るのおせぇんじゃねぇか?」
『……』
「おーおー怖いねぇ。殺気なんて」
降参だと言わんばかりに手を挙げ、両目を閉じて肩をすくめて見せるレン。その目の前にはスイクンから飛び降りたレイン。
『…目的はなんだ』
「そりゃあもちろんオリジナルを無傷で連れて帰ることですよ」
『…連れて行けるとでも?』
「そんなの微塵も思ってないですよ。なんせ、オレ達の母体なんですから」
赤い両目同士がぶつかり合う。
「0、帰還命令が、出ています。私達の指示に、おとなしく、従ってください」
『誰が従うか』
「さもなくば…貴方の大切、な人達に、も、実験に、参加してもらう、ことに、なります」
《何だと!?》
『……』
スイラは慌てて横にいるレインを見上げた。だが彼女の表情は無だった。何も、読み取れない。
『大切な人、か』
「ええ、そうですよ」
『それは誰だ?』
「…は……?何言ってるんですかあなた。オレ達は今まであなたを監視していた。
その間、人とかかわりを持っていたじゃないですか。あろうことか、化け物であるあなたが」
『あぁ、あいつらが大切な人…?はっ、ちげぇな』
レインは笑って見せた。それは、恐ろしいほどきれいに。
『オレに大切な人などいねぇよ。オレにとってオレ以外の人間すべてが……化け物だ』