理想と真実 本

□第二十二話
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「化け物……ね」



ほぅ、とため息をついたレン。



「自分以外の人間すべてが、化け物……そういう捉え方もあったんですねぇ」


『…』


「ですけど、貴方のことを化け物だと考えてる人の方がはるかにいますよ」


『ンなコト理解してる』


「化け物だと思ってるモノから化け物と言われる人間たちは…どのように思うんですかね、姉さん?」



小ばかにしたようにレインに聞いてくるレン。その呼び名に、レインは僅かに目を見開いた。



『お前……まさか…』


「あれ?もしかして気づいていませんでした?うわぁ…傷つくなぁ…ねぇ?ゼロねぇ?」


『!』



たった今確信した。コイツは……



『お前…ハツか…?』


「ええそうですよ。もっとも、今はレンと名乗っていますが」


『ならその隣の奴は…』


「リィですよ。ま、貴方といたころの記憶なんてとっくの昔に消されてありませんがね」


《(……知ってるのか、こいつらを)》


『(ああ……オレが研究所にいたとき、よく引っ付いてきた“兄妹”だ)』


《(兄妹?まったく似てねぇじゃねぇか)》


『(おそらく実験で容姿が変わったんだろ。オレみたいに)』


「ポケモンと話すことが出来る能力も健在みたいですね、姉さん」


『…まだオレを姉と呼ぶのか』


「たまに呼ぶくらいで罰は当たらないでしょうしね」


「レン、話し、脱線してる」


「はいはい悪かったねナギサ」



横にいるナギサの黄色い髪をぐしゃっと撫でると、レインにその赤い瞳を合わせた。
幼いころのように、レインにすがってきて頼りなさげな瞳は、もうない。



「貴方がオレ達を化け物と言おうが、オレ達から見ても貴方が化け物なことに変わりはないんで。
まぁこんな話実際どうでもいいんですけど。ホント無駄話しちゃいましたね」



はは、と乾いた笑いをもらす。



「…オレ、姉さんと話したいこと、一杯あるんですよ」



一歩、また一歩とレンはレインとの間を詰めていく。スイラは異様な気配に反応して唸るが、レインは動こうとしない。



「姉さんが逃げたせいで、オレらは苦しい思いを強いられた」



10m



「姉さんが残したたった血と肉片をもとに、また過酷な実験が始まった」



8m



「毎日多くの実験体が死んでいった。下手すればオレも死んでたかもしれない」



5m



「でもね、オレは死ねなかった。あることを遂行するために」



3m



「それだけのために、辛い実験も乗り切った。おかげでこんな力が手に入った」



1m



「ね、姉さん。オレがやりたかったこと、それはね……」



目の前




「オレらを捨てて一人のうのうと普通の生活をしている、お前に復讐することだよっ!」





ドォン





重たい地響きを立ててレンの右手がレインのいた場所に向かって振り下ろされていた。



「レン!総帥の、命「そんなの知るか!オレは…オレは…!!これだけのために今まで生きてきたんだ!」だ、め…」



ナギサの制止の言葉さえ聞かない。



《レインっ!!?》



スイラが慌てて叫ぶ。もし、もしあれが直撃していたら彼女は……冷や汗が伝う。



『…つまりハツ、お前はオレを殺すためにここ数年生きて来たのか』


「っ!?」


《レイン!》



腕が振り下ろされた場所から数メートル後ろに、レインは立っていた。



「……当たらないとは思ってたけど、まさか掠りもしないなんてね」


『生粋の化け物なんでな』



そう言ってレインはレンの燃え上がる右腕を少し悲しそうに見つめた。




  
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