理想と真実 本

□第二十三話
2ページ/2ページ






ブゥンと鈍い音を立ててホログラムは消えた。



「レン……帰ろう」


「く、そ……」



意識を取り戻し、漸く息の整ったらしいレンがナギサの腕を振り払って立ち上がる。



「…今回は邪魔されたが、次は、ねぇぞ」


「レン!」


『…そんな状態で言っても説得力がねぇ』


「うるせぇ!……ナギサ」



レンの言葉に頷いたナギサを光が包み込む。



『リィ……』



小さく呟いた彼女の前の名前。それに反応は返ってこない。



「レン。行こう」



サンダーへと姿を変えたナギサは、背中にレンを乗せると両翼をはためかせた。



「必ずお前とは決着をつける。それまで誰にも殺されるなよ」



恐ろしい捨て台詞を吐いて、彼らは消えて行っく。



『…ゲン』



レインは彼らに気付かれないようにボールからギラティナを出した。



《どうした?》


『奴らを追え。もちろん反転世界からだ』


《承知した》



彼もレインの少ない言葉と今まで繰り広げられていたことから彼女の意思をくみ取ったのだろう。
特に何を言うことなく、素早く入口を作ると、そのまま姿を消した。



《…これで漸く見つかるのか》


『さぁな。とてもじゃないが、そう簡単に見つかるとは思えねぇ…』


《確かにな》



完全に閉じた反転世界への入り口。それを見届けてから背を向けて歩き始める。



《…そういえば、あの雑魚はどこ行ったんだ?》


『今更言うか…アイツらなら消えたさ』


《消えた?》


『雑魚には雑魚なりの帰還方法が用意されてるんだよ』



推測でしかないが、いま組織の保有する実験体は多くても2000ほど。それ以上は力が薄れるだろう。
流石に昔自分の落としてきた少量の血液から培養するにはそれが限界だ。むしろ1000までいっていたのにも驚いたが。
そして培養のきかなくなった今、組織は自分を求めている。



《…っつーことは》


『今捕まっちまえば、厳重に監禁されて死ぬまでいいように使われるんだろうな。殺されることはまずねぇが』


《…喜ぶべきなのか、そこ》


『いや、むしろ悲観すべき点だ。利用されるくらいなら一滴の血も残さず消えたいが、それもできねぇんだからな』



一滴の血さえまた残してしまえば、完璧な化け物でもなく、人間でもない、レンのような中途半端なニンゲンができてしまう。
それだけは絶対に避けなくてはいけない。



『もし捕まりそうになったら、スイラ』


《なんだ》


『グランでも使ってオレを…殺せ』



スイラの足が止まった。



《……縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇぞ》


『もしものことがあるかもしれねぇから言ってるんだろ。……そう簡単に捕まってたまるかってんだ』



後ろを振り返りながら笑う。スイラはため息を吐くと、レインの横を通り過ぎた。



《…これからどうするつもりだ。ポケセンはどうせワタルの息がかかってんだろ》


『……一度帰るか、家に』


《…は?》


『家に帰るっつってんだろ』



確かめたいこともあるしな。そう呟くと、すでに帰ることは決定事項なのか、ボールを手に二つ取っていた。



《お前は全てにおいて行動が規格外だな》


『予想できねぇってか?その方が面白いだろ』



取り出した二つのボールの一つをスイラに向ける。



『戻れ』



不服そうな目を向けながらも大人しくボールに収まったスイラに口角をあげる。



『ルアン』



《久しぶりだな》



もう一つのボールからはルギアを出す。



『家へ帰る』


《…また突然だな》


『いつものことだろ』


《分かったよ》



体を縮め、レインが乗り易いようにする。乗り終わったたことを確認すると、ルアンは両翼を掲げた。



《急ぎか?》


『いや、そうでもない』



それだけ聞くと、彼もまた、イッシュの地を離れた。




  
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ