理想と真実 本
□第二十四話
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《着いたぞ》
ルアンの声により沈みかけていた意識が戻ってくる。木が密集してるそこは紛れもない我が家だった。
『普通のスピードだとこんなものか』
出て来た時にすでに真上を通り越していた太陽だったが、今は地平線へと沈みかけている。
それでも他のポケモンでイッシュからジョウトまでこようとすれば、1日以上かかるのだから早い方だ。
《急ぎでは無いと言っていたが、急いで損は無いだろう?》
『…あぁ、ありがとう。休んでいろ』
労りの言葉をかけながらルアンをボールに戻す。
《相変わらずオレを忘れるなテメェ…》
『出さなくても勝手に出てくるだろ、お前は』
ルアンと入れ替わるようにスイラが出てくる。若干不機嫌なのはいつものことだ。
『1年ぶり、か』
《正確には1年も経ってないがな》
『細かいことはどうでも良い。行くぞ』
鍵を差し込み古びた両開きの扉の片方を開ける。見た目に反してそれはスムーズに開いた。
中に入れば、どこにでもある普通の家の間取りが広がる。
『…埃くせ』
《仕方ねぇだろ、約1年放ったらかしてたんだからよ》
とりあえず電気を付ける。…なにも変わっていない。
古びたソファ、所々傷の入ったテーブル、食器棚…何もかも変わらない。
この家はレインが組織から逃げた後に買い取ったものだ。
埃を被ったそれらを横目に、自室として使っていた部屋へと向かう。
『…何でお前がいる』
2階にある自室に入ると、そこにはヨノワールがいた。おかしい。こいつはオーキドのもとに置いて来たはずだ。
《懐かしい気配が入って来たと思えバ…レインサマじゃないですカ》
『お前、何でここにいる』
《オーキドんトコにいたはずだよな?》
《なに、この家の掃除に来たまでデス》
レインサマが探そうとしていたモノも、まとめておきましたヨ。
そう言って赤い目をキラリと光らせるヨノワール。
『余計なことを…まぁいい。モノに関しては礼を言う』
《いえいえ、では、他の場所を掃除して来ますネ》
ふらりと姿がその場から消えた。この家から気配は消えてないから本当に部屋の掃除に向かったのだろう。
ありがたく塵一つない机の上に置かれた資料を手に取る。
『……』
《何だ、その資料》
『アイツ……ミュウツーに関する資料だ』
《ミュウツーだと…?なんで今更そんなの見てんだ》
『今日会った実験体の気配から、コイツが組織に加担してる可能性が出て来た』
《はぁ!?何よりも人間が嫌いなコイツが!?》
スイラが驚くのも無理ない。コイツ…ミュウツーは己の誕生の事情などから人間が嫌いだ。
ポケモンを元に造られたオレですら、ミュウツーに気軽に近づくことは出来ない。
『オレも驚いたさ。まぁ、まだ可能性があるだけだがな』
《…もしミュウツーが加担していたとしたら 》
『オレらの勝機は殆ど無いだろうな』
《…どうすんだよ》
ヨノワールによってまとめられた資料に目を通す。
『やっぱ肝心な所の資料はねぇな』
《ミュウツーはオレらの生まれた研究所で造られたんだよな?》
『あぁ。まぁ場所は違うけどな』
ミュウツーが生まれたところよりオレらが造られた所の方のが頭の良い人間が集まってたな。
『もしミュウツーを作るのに失敗したとしても、オレが造られればミュウツーみたいなポケモンなんか造り放題だからなぁ』
《実際造られたのか?》
『いや。造られる前に研究所は破壊したからな。あの当時の最先端技術を駆使して作られた機械は全て消した。
そこにいた研究員らも全て消したはずだったんだが、まぁ、消えてないからまだアイツらが造られてんだろうな』
資料を乱雑に机の上に投げ置くと、開いたままだった扉から部屋を出る。
『ヨノワール』
《何でございましょうカ》
『めぼしい資料はもう無いな?』
《はい。残念ながらこの屋敷にあるミュウツーに関する資料はそれが全てデス》
『ちっ…』
《ですガ…》
ヨノワールはもったいぶるように言葉をわざと切ると、その赤い目を愉快そうに歪めた。
《あの方ならご存知かもしれませんヨ?》
『…誰だ』
《ミカルゲ様デス》
ピクリ。レインの指が微かに反応した。
《ミュウツー様が造られた場所でちょうど石となり封印されており、その場におられたあの方なら、知っておられるかも知れませんヨ?》
《よりによってアイツか…》
『…仕方ねぇ。行くぞ』
心底嫌そうに顔を歪めるスイクンを無理矢理ボールに戻し、ヨノワールに向き直る。
『ミカルゲはいまどこにいる』
《あの方なら今、ここから15kmほど離れた海上に浮かぶ小島にいらっしゃいますヨ。あなた様が尋ねることはワタシの方から伝えておきまショウ》
『あぁ、助かる』
《…おや、珍しいことデス。ミカルゲ様の他に、ミュウ様までご一緒デスヨ。これは情報に期待できまスネ》
『ミライまでもか。…そうだな、期待できそうだ』
それでは、と言い残してヨノワールは消えた。気配もないところを見ると、オーキドの元にでも帰ったのだろう。
『ルアン、聞いていたな』
《あぁ、ミカルゲのいる小島に行けばいいのだろう》
『話が早くて助かる』
窓の外にボールを放り、出てきたルアンに飛び乗る。
『どれくらいかかる』
《そうだな…飛ばせば15分くらいでつくだろう》
『出来る限り飛ばせ』
《御意》
ルギアは1度大きな雄叫びを上げると、その両翼を羽ばたかせ、一瞬でその場から姿を消した。