神ノ定メ 本
□第1夜
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―「それじゃあ今週中には帰って来れるのね?」
とある街の上空から聞こえる声。声の発信源は黄色いゴーレムだ。その隣には赤い翼をはばたかせて飛んでいる人間。
夜の暗闇の中を音も無く静かに飛んでゆく。下にいる人間は気付くわけもない。
『はい。それぐらいには帰れるかと…』
―「長かったものね今回の任務。何せ半年だったし…私より年下なのに頑張るねー」
『それほどでもないですよリナリー。僕なんてまだまだですよ』
―「そんなわけないわよ!!レムぐらいの年で半年の任務に付ける人なんてそう多くないわ」
どうやら話相手の名はリナリー、赤い翼の少女はレムというようだ。話方からとても仲がいい事がうかがえる。
と、突然レムの右目に埋め込まれている十字架が鈍く輝いた。
『ッ!リナリーちょっと無線切りますよ。アクマ反応が出ました』
―「分かったわ。気を付けてね?」
『分かってますよ』
かなり遅く飛んでいたのだが、ゴーレムがフードの中に入るや否や、いきなりスピードを上げた。
頭の中で回っているのは、今の時期。もうそろそろこの物語の主人公“アレン・ウォーカー”が出てくる時期だ。
もしかしたらこのアクマ反応のするところにいるかもしれない。そんな期待を胸にレムはスピードを上げながら飛んでいた。
『やっぱりいましたか…“アレンウォーカー”』
レムの見つめる先には少年を守りながらアクマと対峙するアレン・ウォーカー(であろう人物)の姿。
自分の記憶が正しいのであれば、あの横に佇んでいる少年はジャンだろう。
『どうしよう。加勢したほうがいいですかね?』
見るところあまり苦戦はしていない様子。しかし、そう思っていたのもそこまでだ。
『あれは…千年伯爵!!』
そこに現れたのは自分達"エクソシスト"と敵対関係にある"千年伯爵"その人物が出てくれば自分も加勢しないわけにはいかない。
もしここで千年伯爵を仕留められれば願ったりかなったりだ。
『僕がここにきてからもう"D.Gray-Man"の物語は崩れてきている。ここで何か事を起こしてもなにも無いはず…
それに、大まかにしか知らないし…もっとちゃんと聞いておくべきだったなぁ…』
決めてしまえばあとは行動に移すだけ。上空で旋回していたのをやめ、一気に高度を下げる。
「こんばんは千年伯爵。貴方の敵です」
そのころアレンは伯爵と向かい合っていた。そして左手の十字架を発動させアクマと化してしまったジャンの友人、レオに向かってそれを突き刺そうとした。
「ジャン…っ」
しかしそれもジャンがレオの前に立ちふさがってしまい、人間であるジャンを傷つけないためにアレンは攻撃を寸でのところで止めた。
「何でレオがアクマなんだよ。オレの親友(ダチ)だぞ?悪魔のパトロールだってこいつと一緒に始めたんだ…二人で街を守ろうって……
何を証拠に言ってんだよ!!!」
どうやらジャンは親友であり、千年伯爵の怖さを知っているにもかかわらずアクマになってしまったという事を信じ切れていない様子。
そんな隙が、命取りとは知らずに…
「レオ…」
アクマとなったレオがジャンの頭にその銃口を向ける。それにいち早く気づいたアレンがジャンを守るように左手のイノセンスで囲み、前に立ちふさがる。
『(間に合えっ…)』
ドドドドドドドッ
あたりに銃の発砲音が響く。ジャンは自分がアレンのイノセンスで助かった事を知る。しかし、ジャン以上に驚いていたのはアレンだった。
「痛く無い?なぜ…!!」
確かに銃を受けたはずなのに痛みがないのだ。右手で顔を覆っているため、前の様子を知ることが出来ない。
右手をどければ、目の前に広がるのは誰かの背中と赤い翼。
レムが銃がアレンに届く前に降り立ち、銃を受けたのだ。
出来る限り自分が放った赤炎の羽でアクマの銃を撃ち落としたのだが、やはり時間がなく右腕に銃を受けてしまった。肩からは血が滴り落ちる。それを左手で押えた。
「貴方は…」
『怪我は、してませんか?』
振り向きアレンとジャンを確認すると、フードをかぶっているため見えにくいが二人ともアクマの銃弾を受けている様子はない。
それにホッとすると体が急に重たくなり、その場に倒れ込む。手を見れば星模様のウィルスが浮き出ていた。
『結構浸食のスピードが速い…』
「ハァ❤躊躇なく二人を助けるために弾丸に飛び込んでくるとは勇敢なエクソシストですねぇ。
気分はどうですかジャンくん?君はねぇ、ムカツクんですヨ。力も無いのに正義にばーっか燃えてて吾輩のこと悪物悪物って
吾輩はただ皆のためにアクマを作っているだけなのニ❤」
そしてそのまま千年公は悪魔の説明を進めていく。その間レムはウィルスを消すために力を集中させていた。
「僕には見える…アクマにされて苦しんでいる彼の母親の姿が」
『このアクマは…レオの母親の魂を千年公の力を借りてこの世に呼び出し、アクマにしてしまった…
彼らは苦しんでいる…苦しめる要因を作ったのは千年公、あなた。全てを助けないと…あなたを倒す』
「見えル?❤」
力を入れて立ち上がり、千年公を睨みつける。立ちあがったはずみでかぶっていたフードが脱げ、周りの様子が視界に飛び込んでくる。
僕の周りにはイノセンスからあふれた力が渦巻く。そばに寄ってきていたアレンはその力の強さに離れる。
「何を言ってるんですこの死にぞこないとちっぽけな少年ガ❤」
『死にぞこないですか。僕は装備型のイノセンスも持っていますが、寄生型でもある。毒くらいなんてことありません』
集中して高めていた力を一気に開放する。レムの顔に黒のペンタクルはなかった。
「これはいったい…」
「もしやこの力ハ❤」
鈍い音とともにイノセンスの気がはじけた。
「もしやガキどもその目…」
少し考えるそぶりを見せてから千年公は思い出したように大きな声で言い放った。