神ノ定メ 本
□第6夜
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とある高原に一人の男が歩いていた。ガムを噛みながら、あたりの絵を描いて行く。その絵は的確にあたりをとらえている。
「元帥」
男は呼ばれ、振り返る。黒ぶちの眼鏡をかけ、目は眠そうだ。髪は無造作に後ろで結われている。
「あれ!久しぶりーん★」
男は顔に似合わないハイテンションで返事を返した。
「そうか…デイシャが死んでしまったか。か、悲しいことだ…
よく隣人ノ鐘(チャリティー・ベル)で私の眼鏡を割っていたずらしていたあの子が…
とっても、いい子だったのになぁ」
辺りに響く、男の嗚咽。その横にはマリと神田がいた。
「遺体は本部へ輸送されたそうです」
「隣人ノ鐘も奪われていました」
神田が珍しく敬語を使うことから、この男がかなり位の高い人という事がうかがえる。
「ティエドール元帥。一度我々と共にご帰還を」
「デイシャの故郷は確かボドルムだったかな。美しいエーゲ海の町だ」
言葉には答えず、その場で持っていたキャンバスに絵を手際良く描き始める。
「元帥、敵はあんたと、あんたの所持しているイノセンスを狙ってるんです」
「私が見た記憶の映像だから少し違うかもしれないが…
デイシャ、絵で申し訳ないが君の故郷を送ってやろう。どうか、心安らかに」
神田の話を無視し、自分が描いた絵をマッチの火で燃やし、その灰を空へと送る。
「私は帰らん。今は戦争中なんだ。元帥の任務を全うする。それに、新しいエクソシストを探さないと。
神が私達を見捨てなければ、また新しい使途を送り込んで下さるだろう。
そういえば、神田(ユーくん)と同じ日本人のエクソシストがいたね。その子はどうしてるんだい?」
「(ユーくん、だと…?)」
「(神田…押さえろ)…レムのことですか?彼女ならクロス部隊として向かいました」
「イノセンスとはどうだい?うまくやれているようかな」
「はい。聞いた話だとシンクロ率はかなり上の方だと聞いています」
「そうか…」
絵の灰は空高く昇ってゆく。全ての絵が燃えると、彼…ティエドール元帥はこちらを向いた。いまだに涙が流れている。
「僕らの希望はまだ消えていないよ」
「…お供します、ティエドール元帥」
神田とマリは頭を下げた。
✝黒の教団本部✝
「ティエドール部隊、デイシャ・バリー
ソカロ部隊、カザーナ・リド、チャーカー・ラボン
クラウド部隊、ティナ・スパーク、グエン・フレール、ソル・ガレン
…以上6名のエクソシストが死亡。探索部隊を含め、合計148名の死亡を確認しました」
リーバーが静かに告げる。コムイら科学班の目の前には、大聖堂に並ぶ多くの棺があった。
手前にはエクソシストが眠っているのであろう、黒い棺が6個。奥には探索部隊が眠っている白い棺が142個あった。
その棺の周りには仲間だろうか、同じ探索部隊が棺に顔をうずめ、泣いている。
耳を済ませれば、後ろにいる科学班のものがエクソシストの事を話しているのが分かった。
「エクソシストが敵わなきゃ、どうしようもないじゃないか」
「オレ達、どうなっちまうんだよ…」
「伯爵に…殺されるのか……?」
「黙れよ。命かけて返ってきた仲間の前で泣きごとほざいてんじゃねぇよ」
リーバーが後ろで話していた科学班を睨みつける。彼らはすぐさま下を向き、顔を合わせようとしない。
コムイは帽子をとり、棺に向かって頭を下げる。
「お帰り。がんばってくれてありがとう」
その場にいた全ての人が、頭を下げた。
「イエーガー元帥の死因と?」
「はい。解剖の結果、3名のエクソシストの遺体が元帥と同じ状態でした。デイシャ・バリーとソカロ部隊の2名です。
身体を開いた跡が全くないのに臓器の一つが丸ごと取り除かれてるんです」
「(………っ、ノアか…?)」
場所は大聖堂から少し離れたろうか。そこでコムイはリーバーに帰ってきたエクソシストの死因について報告を受けていた。
「ティエドール部隊とソカロ部隊は3人構成だったけど、他の3人の生存確認は?」
「ティエドール部隊の神田とマリは確認は取れています…が、ソカロ部隊のスーマン・ダーク、まだ消息不明状態です」
その言葉を聞いて、コムイは唇をかみしめた。