神ノ定メ 本
□第7夜
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「私が発動している間はこの船の空間は現実の時間に侵されません。それに乗組員や私達もこの空間にいるうちはどんな傷を負っても回復します」
「便利な能力だな」
「いいえ。結局はかりそめの能力です。傷は必ず体に残り、致命傷を負えば必ず死にます。私の能力は死者の時間を戻すことはできません」
ミランダは、重々しくそう告げた。
―ここは…どこだろう…
アレンは変な所にいた。白く大きな月が空に浮いている。死後の世界だろうか?
―あれ…?空の月は白いのに…この水面の月は黒い
水面をのぞけば、そこには見なれた建物の残骸。そのうえで泣いているのはリナリー。
―あれは…!?リナリー!?
突然水面の画像が変わる。そこには、ここに来る前に見た白いドラゴンがいた。
―レム!?しかもここはさっきリナリーがいた場所と同じ…
不安定な瓦礫の上に辛うじて立っていた白いドラゴンは力を失ったかのように地面に落ちていった。
落ちた場所も瓦礫。辺りに土煙が立ち込める。土煙が晴れた後、上からさらに残骸が落ちてきた。
―…!!、危ない!!レム!!
その残骸は、白いドラゴンに向かって落ちて行く。ドラゴンは重々しく頭を上げ、残骸を見つめるだけ。
―レム!!!!!
水面に手を伸ばそうとした時、水面から手が出てきてアレンの手をつかんだ。その途端水面がどんどん凍っていく。
「水が、凍って…!?レム………っ!!くそっ放せ!!」
―「ダメ…」
水面に映る誰かが、そう呟いた…
ふと、目を覚ましたアレン。映ったのは天井、横には眠っているのか、動かない少女がいた。
「僕は、生きてる…」
起き上がり、手を見つめる。左腕はない。右手には包帯が何重にも巻きつかれている。
「…うっ…」
涙を流した。生きてて嬉しい?悲しい?悔しい?
…分からない。ただ、震えが止まらなかった…
アレンはそのまま部屋を出ていった。
その後、目を覚ました少女は寝ていたアレンがいない事に気付いた。そこへ入ってくる髭の生えた男。
「悪いウォン。居眠りしてたら白髪の奴どっか行っちまった。あんな体じゃ動けるわけないと思ってさ…油断した」
アレンが寝ていた部屋に包帯を取り換えに来たウォンは少女、フォーから話を聞きその場から走り去りアレンを探し回った。
「そういや、あいつはどうしたかな…確か名前は、久遠レムだったっけ」
フォーは呟き、そのままそこを立ち去った。
『ハァ…』
アレンが地下でアジア支部長、バク・チャンと話しているとき、レムは部屋で膝に顔を埋めていた。
『(僕は、生きているんですか…)』
右目には包帯が巻かれ、何も見えない。右腕にも添え木と包帯が巻かれていることから、折れているのだろうことが分かる。
「お、目ぇ覚めたか」
『フォー、でしたっけ…』
「何であたしの名前知ってるんだ?教えた覚えはねぇぞ」
『それは…僕が特殊だからです』
「分かんねぇけど、あの事、バクに伝えておいたぞ。いいんだな?これで」
『はい、これでいいんです。このほうが、アレンにとっても僕にとってもいいんです』
「そうか?あたしはそうは思わねぇぜ。何で………“自分は死んだ”と嘘をつく必要がある?」
『いろいろと、あるんですよ…』
悲しそうに笑うレムを見て、フォーは訝しげにレムを睨んだ。
その頃、バクとアレンは大きな広間に来ていた。
「キミのイノセンスは死んでいない。だがそれを告げる前にどうしても君の気持ちを確かめておきたかった。
咎落ちを知り、死の苦しみを味わった君が、もう一度戦場に戻る気があるのかどうかを…ね」
バクはアレンにレムに言われた事をどう話そうか悩んでいた。
「(……くそう、いつどうやって話せばいいのやら…フォーの奴、面倒なこと押しつけやがって)」
そんなこんなしているうちにどんどん話は終わりに近づいてきている。
悶々としているとき、運良く向こうからその話題を振ってくれた。
「そういえば…レムはどこにいるんですか?確か…同じ場所にいたはずなのですが……」
その言葉にバクはまたもや詰まった。話を振ってくれたのは嬉しいが普通に話しだせない。そこへ…
「あ――――っ!!見つけたぞテメェ!!」
バクに突然横から飛び出してきたフォーの飛び蹴りがクリーンヒットした。そのまま壁に打ち付けられるバク。
「エクソシストだろうが、アジア支部にいるうちは勝手な行動は慎みな!大体テメェ起きたらまずあたしにあいさつだろ!」
アレンの前に仁王立ちする少女。すかさずウォンが説明してくれた。
「彼女はフォー。このアジア支部の番人です」
今にも暴れ出しそうなバクを抑えつけながらウォンが言う。アレンは彼女にも同じ質問を投げかけた。
「レムは、何処にいるんです?」
今まで威勢がよかったフォーの気迫が、いきなり静まる。
「あいつの事は、忘れろ」
「はっ!?それはどういう事です!?」
「彼女は、死んだのです。フォーが見つけた時にはもう、手遅れでして…
遺体は、我々の方で処理いたしました。もうこの世には何もございません」
暴れていたバクも静まる。ウォンの元から離れると、アレンの前に立ち、一つの赤い羽根を取り出す。
先についてある水晶にはアレンの名が彫られていた。
「これは彼女の持ち物の中にあったんだ。君へだよ」
「赤い、羽…彼女は、レムは本当にもう、本当に、いないんですか?」
「ああ…」
「そうですか…」
そのままアレンはしゃべらなくなった。その場の雰囲気に耐えられなくなったのか、バクは無理矢理、話題を変える。
「さ、さあ君のイノセンスのもとへ行こうか!!」
アレンはただ黙ってバクの後ろをついて行った。
「(本当に、これでいいのか?レム…)」
フォーは一人心の内で呟いた。