神ノ定メ 本
□第9夜
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ちょめ助に連れられ、船着場から下りる。そこには大きな鳥居。その中央にはペンタクル。下げられている提灯には“伊豆”と書いてある。
「日本国はもう3百年近く他国との貿易、干渉を一切拒絶した。
“閉ざされた国”として東の果てに存在してきた。“誰も入れず、誰も出てこれない”と…」
「考えてみれば、うってつけの隠れ家だ。恐らく三百年の歴史の裏には、伯爵が潜んでいたのではないか?」
「そうだっちょ。伯爵様は日本を拠点に世界へ魔道式ボディを送り出してきたんちょ。
日本人口の9割はおいらたちアクマで、国の政(まつりごと)は全て伯爵様が行ってるんだっちょ」
「300年も…」
「伯爵アクマの楽園っすね、まるで」
日本について説明するのは、人型になったちょめ助。悪と書かれた提灯片手に階段を上っていく。階段を少し上った辺りで、前方に人が見えた。
「サチコ…」
「!」
彼女はそう呟く。あまり顔色がよさそうには見えない。こいつもアクマか?
「川村!!」
「“サチコ”って」
「おいらのボディ名だっちょ。あれは仲間の“川村”同じマリアンの改造アクマだっちょ!」
ちょめ助が走って川村に駆け寄り、肩に手を置く。しかし川村の様子がどことなくおかしい。
体が震え始めたかと思うと、首が吹っ飛び、アクマの体が見えた。
「隠れろっちょ!!」
叫びながら川村から離れ、ラビたちを道の端に押し込めるちょめ助。隠れた途端、階段の上の方から三体のレベル3のアクマがやってきた。
そいつらはなぜか仲間であるレベル2のアクマ、川村を喰っていく。
「(地区内でアクマの密度が非常に濃いと、こういう現象が起きるんだっちょ。殺人衝動を抑えるために他のアクマを吸収し、能力を奪う…
日本では人もアクマも関係ない…強い存在だけが生き残れるんだっちょ)」
アクマはあとかたもなく喰いつくされた。
「うぇ…吐きそうさ。気分悪ィ…」
「アクマ同士で共食いし合ってるなんてな…」
すぐ横には、喰われたアクマの残骸らしきものが山のように積み上げられている。
そこを通る時、リナリーを背負っている船員…チャオジー。また、その先輩のマサオとキエは自己紹介をしていた。
そんな事をしているとき、ちょめ助に変化が見られた。どうやら殺人衝動を抑えるのに苦労しているらしい。
「げちょ…っ!!は…伯爵様からの送信っちょ!!」
「伯爵から!?」
「私達の侵入がばれたの?」
「い、いや、そうじゃないと思うっちょ…めちゃめちゃでかい送信ちょ…制御が、きかな…
アカン。頭がグラグラしてきた…おいら誰?ここドコ?」
頭を抱え、冷や汗を流すちょめ助。額にはいつの間にかペンタクルが浮かび上がっていた。
✝とある川岸✝
「は?」
鯉片手に川に足を突っ込み、口に骨を咥えながら、ティキは間抜けた声を出した。捕まってしまった鯉は何とか逃げようと暴れている。
「きぃ〜えないんでございまぁ〜す。ア〜レン・ウォ〜カ〜の名前がぁ〜。こすってもぉ〜こすってもぉ〜」
カードの中にいる小人が、ブラシ片手にアレンの名前を擦る。死んでいると消えるのだが、アレンの名前は全く消えない。
「こ〜いつ、いぃ〜きてるぅ〜〜〜」
その言葉にティキの動きが止まった。鯉はもう暴れるのを断念していた。もう死を覚悟したらしい。
「おいおい〜カッコいいナリしたお兄さんが、池で鯉盗み食いしてんなよなー」
向こう側から歩いてきたのは二人組の男。手には銃を持ち、なぜか片方の男の頭には提灯のようなものが着いている。
「よう双子か。今日も顔色悪いな」
「デビットだ!このホームレス」
「ジャスデロだ!二人合わせてジャスデビだ!!」
「悪いけどあっち行ってくれる?今考え事してんの」
ジャスデビの言葉を聞き流し、あっちに行けと手を払う。すかさずデビットがその腕を蹴り飛ばした。
「な、あんたさ、アレの関係者殺して回ってんだろ。ここに来たのもそれって聞いたんですけど〜?」
「あークロスなんとかって奴をね…」
「そいつはエクソシスト元帥で、オレらの得物だ!!!手ぇ出したらぶっ殺すぞっ!」
「は?」
ズイッと顔を突き出し、物騒な事を言う。そのまま三人は千年公のもとへ行くため、その場を後にした。
ティキにつかまっていた鯉は池に戻された。日本独自の移動手段である人力車をジャスデロが猛スピードで押しながら千年公のもとへと急ぐ。
「ああなんだ、お前ら元帥殺しでクロス担当なんだ?てか、だったら早く殺れよ。いつまでかかってんの?」
「もう3回ぐらい殺しに行ってんだけど、失敗してんの。ニヒヒヒ」
「あんたこそ一人暗殺し損ねたそうじゃんか。アレンなんとか?」
「うるせぇな」
自分のことは棚に上げるティキ。てか、生きてるかもなんてついさっき知ったばっかだし…
そんなとき…
ゴッ
人力車が何かを轢いた。
「千年公とロードが来たってことは、“箱”ができたんだ?」
「だろうな。…で、甘党は何しに来たんだよ」
「甘党じゃないっ、スキン・ボリックだ!!!」
先ほど轢いたのは、ノアの一人“スキン・ボリック”だった。大の甘いモノ好きで知られている。
「おのれが殺し担当のメガネ元帥がこっちに逃げ込んだ。ただそれだけのこと!!」
「…オレらみんな落ちこぼれ社員みたいだな…」
「それだけのこと!!」
「オレは違げーぞ!」
「ヒヒ!!社長に怒られる!ヒヒ!!」
そんな事を言いながら、四人は江戸の中心部へと向かっていった。