儚き狼 本
□第2幕
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今回は1人ではなく、狐妖怪である金と銀がついていた。2人は姉妹でまだ幼い…といっても、既に100を超えている。
しかし、人間時の容姿はまるで6歳児。つまり、力だけはあるが、人間の姿だと何もできないのだ。
だから、今は小さな狐になり、舞の左右の肩に乗っていた。
「何処行くんですか?総大将」
「刀なんか持ちだしてー。妖怪狩りー?」
上の敬語で話すのは金、下の間延びした口調で話すのが銀。見分けやすいだろう?
『ああ、森にすむ妖怪が被害にあっているらしいからな』
「どのような妖怪でして?」
『鎌鼬(かまいたち)らしい』
鎌鼬…風に乗り、人を傷つける妖怪だが、本来は3人1組で行動している。1人が突き飛ばし、1人がその隙に怪我をさせ、1人が薬を塗る。
最後に薬を塗るため、人々は鎌鼬によって怪我をさせられたことに気づかぬまま、普段通りに生活するのだ。
(補足:月光のうろ覚えの情報のため、あてにしないでください)
『今回は傷つける奴だけ。それも傷つけるだけで済まず、運が悪ければ死んでいる。そういう報告も受けている』
「邪道に入った妖怪ですか…」
「同じ獣妖怪としては複雑だねー」
「そいつの特徴は?」
『最近は頻繁に女性を狙っているらしい。しかも今頃の時間帯に。男の姿に化け、刺し殺すのが殺り方だ』
「うわっ、嫌だぁー」
「無残な…」
顔をしかめる金。銀は相変わらず、にゃはーと笑っているだけ。
『とにかく、いち早く見つける。死人が出る前に……何としてでも』
両手を握りしめ、懐から狐の面を取り出すと、それを付けて再び歩き出した。
「そうだいしょー」
『何だ?銀』
「ボク達とは違う、獣の匂いがするー」
『何処からだ?』
「遠くはありませんね。………こっちです」
肩から飛び降りた金と銀は、先頭切って走り始める。それを舞は追いかけた。
「きゃぁああああ!」
『ッ!』
「総大将っ!まだ…!」
人の叫び声が聞こえた途端、舞は金の制止の声も聞かず駆けだした。
「いや、いやぁ!こないでぇッ!」
「何言ってんだぁ!?嬢ちゃん!」
駆け付けた場所では、綺麗な着物を着た…きっと公家の女が、一人の男に襲われていた。しかし、その男は人間じゃない。
…妖だ。あの尖り過ぎた牙と爪。目は人間の物ではない。興奮しすぎているのか、瞳孔が開いている。
「怖がらなくていいよー?痛いのは……一瞬だからねぇえ!」
両手が巨大な鎌になる。少女は、驚きで動きが止まり、泣きもしなくなった。ただ、地面に手をつき、座り込む。
その少女の瞳に見え隠れしているのは……
諦めと、死への恐怖
『諦めるのはまだ早いぞ』
「え?」
「なっ!」
振り下ろされた鎌。反射的に目を瞑った少女に掛けられた声。何時まで待っても襲ってこない痛み。恐る恐る目を開けると…
『大丈夫か?』
狐の面を付けた、女性が刀を持って目の前に立ちふさがっていた。
「邪魔をするな!雌狐!!」
《総大将に向かって、なんてことを…!》
雌狐といってきた鎌鼬に反論するのは、遅れてやって来た金だ。その姿は凛々しく、本来の巨大な狐になっていた。それは銀も同じ。
2匹は舞の前に立つと、鎌鼬を威嚇し始める。彼は脅え、ずるずると後ろに下がっていく。
と言うかこいつ、私を狐と言ったな。まぁ仕方あるまい。今は狐の面をしているのだから。
『鎌鼬、なぜ人を襲っていた』
「な、なぜ俺が妖だと知っている…?」
『質問に答えろ』
刀を突き付ければ、ひぃッ、と悲鳴を上げ、冷や汗を流す。
「存在理由が…欲しかった。ただそれだけだったんだ…悪かったな嬢ちゃん……なんて、言うと思ったかぁ!?」
『!』
「いやっ!」
突然本来の鼬の姿に戻った鎌鼬が、少女を側に引き寄せ、鎌を突き付ける。
《コイツの命が惜しければ、俺を見逃せ!》
《コイツ…!》
唸る金を制止し、舞は一歩一歩前に進む。
《来るな!来たら…コイツが生きて居られる確証はねぇぞ!》
「や、やめて!」
ギャンギャン吠える鎌鼬を、舞は背後に回り込み…
ザシュッ
《え……》
刀を一振りし、切り捨てた。前に向かって倒れこむ鎌鼬を、冷たい目で見降ろす。
『……おい』
「な、なんですか……?」
完全に脅えきっている少女。瞳は揺れていた。
『…怪我はないか?』
「あ、はい。大丈夫です」
手を差し伸べれば、おずおずと掴み、立ち上がった。