儚き狼 本

□第6幕
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「…おい、誰にも知らせねぇでいいのか?」


『置き手紙を残してきた』


「何て書いた」


『“花開院家に行ってくる”』


「…嘘の一個ぐれぇつけよ」



屋敷を飛び立った牙龍の背に跨っているのは、真っ黒い狼姿になっている舞。



「そもそも、何で俺が行かなきゃいけねぇんだ」


『借りは返したいだろう?』



花開院家までは彼女の屋敷からだとかなりの距離がある。前回は珱の牛車に乗って行ったため楽だった。
まぁ、狼になって跳んで行くという手もあるのだが、利用できそうなものを利用しない手はない。










「…着いたぞ」


『早いな』



空が白んできたころ、花開院家に着いた。



「こっからどうすんだ?俺達は結界で中に入れねぇんだぞ」


『これがあるから心配ない』



舞が取りだしたのは一枚の札。



『これを持っていれば出入り自由だ』


「誰から貰った」


『秀元だ。また来るって言ったらくれたぞ』



ポンッ、と音をたてて人間へと戻ると、牙龍にも人型になるよう指示をする。



「…落ちるぞ」


『着地するから問題ない』



ハァ…、とため息を吐くと牙龍も人型になった。銀髪の青年姿の牙龍はちょっと格好いいと思う。
煙が晴れた直後、落下する二人。もちろん、華麗に着地した。



『行くぞ』


「わーってるっての」



牙龍に札を持たせ、さっさと中へ入って行った。



「オイ、札…」


『私にはこの程度の結界何ともない』



ちょっとピリッとするがな。今だ結界の前で立っている牙龍にそう言った。



「…秀元はどこにいる」


『この屋敷のどこかにいるだろ。匂いで探すから待っていろ』



目を閉じて集中する。アイツの匂いは特徴的だったため覚えている。



『…見つけた』


「こっちも見つかってるぞ」


『は?』


「見回りの陰陽師に見つかってるんだっつってんだよ」



確かに周りにはいつの間にか数人の陰陽師が札を持って構えていた。



『…さて、どうしたものか』


「どうしたものかじゃねぇよ。見つけたんならさっさと行くぞ」



牙龍は舞の肩と膝裏に手を回すと、抱え上げて宙に跳んだ。それもかなり高く。舞は特に驚くこともない。



「どっちに居る」


『ここから南に500メートル先の屋敷の中だ』


「分かった。しっかり掴まってろ」



捕まるったって何処を。そう聞く前にものすごいスピードで移動され、言葉が口から出ることはなかった。




  
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