儚き狼 本

□第10幕
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『妖力(力量)を図り違えたな』



そういって刀を鞘へと戻す舞。一つ一つの動きに隙がない。故に反撃さえできない。



「(…こいつァえらい妖を敵にまわしちまったか…?)」



内心焦るぬらりひょんなど眼中にないかのように舞は珱に目を向けた。



『怪我はないか?』


「だ、大丈夫です」


『そうか……。じゃあ私は帰る』


「え、先ほどいらしたばかりじゃないですか!」


『そこの妖のせいで気分が害された。それに…』





「珱姫様―――っ!」





『…是光が感づいたらしいからな』



先ほどの戦闘で微量な妖気が流れたためだろう。陰陽師が多数こちらに来るのがわかる。



『じゃあな』


「ハイ……」


『ふ、また来る』



しょんぼりと落ち込む珱の頭を撫で、開けてある襖から出よう……とした。



「なんじゃ、もう行ってしまうのか?」


『……』



なんか話しかけてきたが無視だ無視。縁側に飛び降り、そのまま大きく跳躍して一気に塀の上に乗る。



『(……あれが奴良組の大将なのか?)』



少し振り返り、珱の横に佇みこちらを見てくるぬらりひょんを睨みつける。



『(…拍子抜けだ。思っていたよりも随分と弱い妖だ)』



前に向き直って夜の街へと跳び出し、屋根伝いに飛んでゆく。



『まさか、この私さえ見つけられないとは』



ふと、飛び乗った屋根の下から膨大な量の妖気が流れていることに気が付いた。耳を欹てると、しきりに奴の名が出ていた。



『奴良組はこの宿に泊まっているのか…』



珊の報告通りの妖達の妖気がただ漏れしている。その中にいくつか名のある妖が混ざっているのが感じ取れた。
大将はアレだが、その下につく幹部は侮れぬかもしれない。



『(奴の気配もない。このまま屋敷に帰るか…)』



細心の注意を払って気配を探ってみるが、今だ奴は珱の屋敷から動いていないことに気付く。



『アイツ、珱に気があるのか?だから屋敷に…』



何とも分かり易い奴だと思うと同時に、



『人間に恋い慕うとはなぁ…』



落ちぶれたか。そうとも思った。










『帰ったぞ』


「そうだいしょー!お帰りなさいませー」


『銀か…屋敷には何もないか?』


「はい。今のところはなーんもないですよー」


『そうか。珊と煉はいるか?』


「はい、ここに」


「どうかなさいましたか、総大将様」



銀に呼んで来て貰おうと思っていたのだが、その必要も無かったらしい。すぐ横に現れた二人に薄い笑みが漏れる。



「総大将様?」


『ああ、すまない。私の部屋まで来てもらえるか?……頼みごとがある』


「分かりました」



スッ、と音も立てずに消えた二人。それを見届けると、舞も自室へと向かう。



「総大将!」


『睡蓮か。どうかしたか?』


「いえ…」


『ならすまないが、私の部屋の周りを人払いしておいてくれ』


「…理由をお聞きしてもよろしいですか?」


『………奴良組に対抗するための会議を開く。分家からも数人呼ぶ』


「ッ、なら私も…!」


『ならん。睡蓮は分家に連絡を取ってくれ』



歩きながら会話をする二人。少し前なら止まって話しただろうが、睡蓮は数歩前を歩く自分の主人の背を見つめるだけだ。



「何とお伝えすればよいでしょうか」


『夜烏(よがらす)組からは夜来(やらい)を、医善(いぜん)堂からは薬袋(みない)を、藺草(いぐさ)組からは凩(こがらし)を。あとは……』


「…偵察に適した人を集めていらっしゃるのであれば、高麗(こうらい)組の黄鶴様と碧空様はどうでしょうか。
あとは、影縫烏(かげぬいがらす)の遠影(えんえい)様、陽月様と陰月様、斑鳩様も…」


『そうだな。そいつらを至急集めろ』


「御意」




  
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