儚き狼 本
□第11幕
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『…とりあえず、全員にやってもらいたいことを言うぞ』
まずは先に話してしまった陽月と陰月の方を向く。
『お前達は先ほど言ったように、奴良組に潜入してほしい。期限は3週間。それ以下でも、それ以上でもない』
陰「…よろしいですか?」
『なんだ陰月』
陰「なぜ3週なのでございましょうか」
『ああ。奴らは腐っても大妖怪率いる奴良組一行だ。いろいろ計算するとバレないで情報を集めるには3週間がギリギリだった。
陽月、悪いがお前には怪我を負ってもらわねばならない。怪我といっても幻のだがな』
陰「…分かりました」
『悪いな。このような役をお前たちに頼んで』
陽「いえ、黒狼様のお役にたてるのであれば、この命尽きるまで…お傍にお仕えすると誓った身です。
何なりと、どうか黒狼様の考えるままにこの命、使ってくださいませ」
『陽月、お前たまに饒舌になるな』
陽「……」
陰「して、詳しい内容は、なんなのでしょうか」
『私が陽月に大怪我を負った幻術をかける。陰月は奴良組の拠点の近くで陽月を介抱していろ。
奴らはこの地を手に入れるため、人助けまがいを行っている。怪我を負ったお前らを見捨てはしないだろう』
陰「そして上手く奴良組内に入り込む、と?」
『ああ。そこでどうにかして3週間で奴らの信頼を掴みとれ。3週間たったらこちらから迎えを出す』
陽「黒狼様のご期待に沿えるよう、頑張りますわ…」
『あまり気張るなよ。バレればお前達自身が危険にさらされるのだからな』
陰陽「承知いたしました」
三つ指で頭を下げる二人を見た後、薬袋の方を向く。
薬「何だ、今度は俺か?」
『ああ。これからの戦闘に向け薬を多めに用意してほしい』
薬「特に何が欲しいとかあるか?」
懐から半紙と筆を取り出した薬袋に対し、顎に片手をあてしばし考え込む。
『とりあえずは一式の傷薬は必要だな。毒抜きに痛み止め。あとは………』
薬「……ああ、あれだな。それなら時間がかかる。もう行ってもいいか?」
『頼んだ。追加があれば連絡する』
薬「あいよー」
二人の間で何らかの合図が送られると、薬袋はそれに頷き返し、早々に部屋を出て行った。
そこにいる誰もが訝しがったが、指摘するものは一人もいなかった。
『後は……そうだな。斑鳩』
斑「なんだ?」
『お前、ふらり火だろう?』
斑「そうだが…何をいまさら」
『その煙の一部、飛ばし情報を掴むことは可能か?』
斑「いや………出来るには出来るが俺のは相手の位置を掴むとか、その程度のモンだ。より確かな情報が欲しいなら…」
斑鳩は隣で腕を組み目をつむって話を聞いていた遠影を見た。
斑「遠影の影なら相手の声も位置も姿も映し出すことができるぞ」
遠「……出来なくもないな」
『頼んでもいいか?』
遠影は一つ小さくため息を吐くと、漸く目を開けた。黒曜石のような目が月の光に反射して鈍く輝く。
遠「俺らはお前の忠実な“僕”だ。どんな危険な命だろうが、俺らはお前の命なら聞きうける」
その黒い目に怖いほどの忠誠心を灯し、舞を見つめた。
『…ふ、凄い忠誠心だな。なら頼もう。大阪城の動向を逐一私に知らせろ』
遠「……羽衣狐か」
『ああ。生き胆を抜き取られる事件がこの頃多発している。啀(いが)達偵察部隊に偵察と始末を頼んでいるが…どうにも手が回っていないらしい。一向に死体の数が減らない』
遠「御意。あとで部屋に行くからな」
そう言い残し、遠影も部屋を去っていった。
『今のとこ頼みたいのはこれで全てだが、追加が出る可能性も高い。全員しばらくはこの屋敷にいろ』
頷き返されたのを見て、舞は部屋を出た。