騙し合う銀 本
□第2幕
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あの事件から数年…奏達は中学生となっていた。
あの事件以来リクオが覚醒する事はなく、コレと言って大きな騒ぎもなかったため奏もあまり覚醒はしなかった。
しかし、確実に二人の覚醒は広まりつつあり、狙われる対象ともなっていた。
―ねぇしってる?浮世絵中学校の裏にある“旧校舎”出るんだって…―
―“旧校舎”なんてあるんだぁ…どこにあるの?―
―誰も行けない。そこでは夜な夜な死霊たちが暴れていて、もし迷い込んだら……二度と帰って来れないんだって―
―うそォ、でもそれ、本当にあるの?―
―じゃあ教えてあげる。でも…絶対に近づいちゃダメ、よ…―
「で?それのどこがボクのせいって言うんだよ?」
奴良組本部に居るリクオは、朝っぱらから水撒きをしていた。その横には鴉天狗が飛んでいる。
「こっちの週刊誌には都市伝説。こっちは河童。そして、インターネッツなるシロモノには“現代妖怪”の情報がズラ〜〜リ!」
『…インターネットな』
「奏!もうそんな時間?」
『いや、早めに来ただけ』
そして、ここ数年でかなり変わったことがある。それがリクオと奏の仲だ。
お互いの家を行き来するほどになり、登下校は一緒。そしてお互い名前で呼び合っている。
リクオにとっては嬉しい進歩だ。
『何の話してんの?』
「奏様からも言って下さい!若が早く奴良組を継ぐようにと!奏様は早くもお継ぎになったのでしょう!?」
『まぁ、ね…それはこっちの事情。そっちはそっちで決めなよ。部外者が口を挟むことじゃない』
「ぐぅ…ですが、かつてのあの快刀乱麻の大活劇。あれはなんだったのですか!」
「だって…あのときは何が何だか分からなくなったんだもん!!自分が何言ったかも覚えてないし」
「そんな無責任な!拙者ははっきりと覚えてますぞ!オレの後ろで群れとか何とか…言ってたくせにぃ〜〜〜」
『何だかんだ言って覚えてないんじゃん。内容』
「そ、それはですね…月日がかなりたっているので…」
しどろもどろになって弁解する鴉天狗。コイツ、からかうとかなり面白いな。
「おうリクオ、朝っぱらからなーんの話をしとんじゃ」
「じーちゃんが放任主義だから代わりにボクが怒られてんの」
「しかたなかろう?ご覧の老体…お前が早く妖怪の総大将を継いでくれねば…わし死ぬな」
「うそつかないで!!昨日も夕方元気に無銭飲食してたくせに!!」
『元気だねーぬらじぃ。あ、これお父さんから』
「雪陽菜からか?どれどれ…おぉ!!これは妖酒じゃないか!一体どこで手に入れたんだか…
ありがとうな、奏ちゃん。今度一緒に月見酒でもしようと伝えておいてくれ」
『解った。伝えとく』
お父さんから頼まれていた物を渡すとそれは妖酒だった。…あれ、あと何本か家にあったよな。
『…ってかリクオ、もうそろそろ行かないと電車乗り遅れる』
「え、もうそんな時間…!行ってきまーす!」
『またね、皆』
枝垂れ桜の下に置いておいた荷物を持ち、先に行ってしまったリクオの後を追おうとしたが、途中で引き返す。
「どうかされましたか、奏様」
『リクオがここを継ぐのはちょっと時間かかるけどそう遠くはないと思う』
「……なぜそうお思いで?」
『リクオ、人にも妖怪にも同等の扱いをする…わけ隔てないっていうのか?だから…さ』
「奏ーーーーー!置いてくよー!」
『今行く。じゃ、どう取るかは自分で考えて』
そう言って奴良家を出ていった。