騙し合う銀 本
□第2幕
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「もう絶対に学校で妖怪の話なんてしない!立派な…人間になるんだ!」
『声に出してる時点で普通の人じゃないだろ』
「……出てた?」
『ん』
うわぁああ、とかいいながら頭を抱えるリクオ。だから、そんなことしてるのは普通じゃないっての。
……でも、たまに不安になる。
妖怪のことを嫌ってるわけじゃないだろうけど。
私は妖怪なのは変わらない。そのうち離れてくんじゃないかな、とか思ったりして。
「こらッ!!カラス天狗!いくら心配だからって学校まで」
いきなりカバンを後ろに向かって振りだしたリクオ。そこに居たのはカラス天狗ではなく、カナ。
「……リ…リクオ君〜〜?何の…つもりなの〜〜〜…」
「カ、カナちゃん!」
「私を殺す気!?」
「そ、そんな…ゴ、ゴメンなさい!!」
その横をすり抜けていく一人の男子生徒らしき人。
『(……そーいう訳か)』
「おはよ〜奴良〜。どーしたんだよ、朝っぱらからケンカかー?それより、アレやった?アレ〜」
「え〜?なんだよ〜?なーんて、もちろんだよ!!」
「うおーすげー。あとさー…悪いけどさー」
「あ!ハイハイ!任しといて!!お昼も買っとくから!!ヤキソバパンと野菜ジュースね!!」
「わかってんじゃーん。奴良〜ほんっとお前いい奴だよな〜」
肩を叩いて走り去っていく男子(名前知んない)。
どう見たってこれはただの“パシリ”だ。これがリクオの目指す“普通”の日常らしい。
『リクオ、これを目指してるのか?これが普通?』
「普通じゃなかったらなんていうの?」
『パシられている光景』
「なわけないじゃん!いいことは妖怪の真逆=バレない!」
『(嫌われても無いけど、好かれても無いこと、気付かないのか…)』
キーンコーンカーンコーン
「あ…いけない。普段と違う道だから遅くなってる」
「あれ…?いつもはこの道じゃないの?」
「だって…下足箱に近い裏門から入ると、近いんだもん…」
「え?」
「何でも無い」
『(そーいう事か…噂は結構広まってるのか。今日あたり行ってみるか)』
カバンの中に入っている氷牙と式紙を確認しながら学校の中へと入って行った。
教室に入った途端、あの鼻につく嫌なにおいがした。
『(朝からこの匂い嗅ぐとか…嫌だ。最悪だ)』
「奏…大丈夫?」
『だめ。何年たってもこれは慣れない。慣れたくもない。何でクラス一緒なんだよ…』
「ハハハ…」
リクオも苦笑いするしかない。しかも災難は重なるばかりで、あの事件の後清継は妖怪に興味を持ってしまったのだ。
「だから…いるんだよね!妖怪は!」
「何?何の騒ぎ?」
「隣のクラスの清継くんの妖怪話よ。昼休みを利用して巡回してるらしーよ」
『…小学校の時と考えが180度も変わってんじゃん』
「ホントね…妖怪なんて信じてたんだ…」
キザワカメの無駄話なんて聞いている時間すら無駄なので、すぐさま席につき本を取り出す。
幸いなことにあいつらが居るのは教卓の前。私の席は窓際の後ろ。会話だけが聴こえる距離だ。
「ボクの“研究”によれば…確かに古来の伝統的妖怪は姿を見えにくくしているかもしれない…
現代の背景に溶け込むことが出来ないからだ」
大勢の男女の前に立ち、得意げに話すキザワカメに悪寒がした。さっさと本読も…
「しかし!ボクのサイトに集まった情報や目撃談!そこから導き出された答え!
それは、妖怪には世代交代があり、いつの時代も我々の日常で悪事を働いている!」
『(当たってる。よく導き出せたな、あんな情報で。ってか無視できてないじゃん)』
なぜかインターネット上に私達の情報がタダ漏れだ。誰かが故意に流しているのか…
「奴良君…昔はバカにして悪かったね。キミのはウソだろうけど。ボクは目覚めたんだよ。あるお方達によってね…」
『(お方達…二人以上…ならあの時いた奴良組の誰かか)』
清継はまるで何かがとりついたかのように両手を上げると、どこかの宗教の人の様に語り始める。
「そう、そのお方達は…闇の世界の住人にして…若き支配者…そして幼いころボクを地獄から救ってくださった…」
『(地獄って…んな大袈裟な)』
「ほれたんだよ!彼らの悪の魅力に取りつかれたのさ!もう一度会いたい…特に女性の妖怪はね」
「じょ、女性…?」
『(まさか…)』
「銀色の美しい毛並みの狐妖怪!あの方にボクは一目惚れした!もう一度会ってお付き合いを申し込みたい!」
嫌な予感は的中。あの時一目惚れされたとか…寒気がする。つき合おうとか言われても死んでも頷くもんか。
「(……何か今ムカってきた。奏はボクのだ……って、何考えてんだか…)」
一人悶々とするリクオ。その姿を見ているのはカナだけ。
「もしかして……清継くん!噂の旧校舎も…!!」
「ああ…行きたいと思っている」
『(来るな来るな来るな来るな…)』
奏の無言の圧力も虚しく、清継達は旧校舎に行くことが決定された。しかも大勢で…
『(もうどうなっても知らない)』
奏は目線を本へと落とした…