騙し合う銀 本

□第3幕
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「やっと帰ったかリクオ!お前、ま――た学校なんぞに行っとったんか!」


「…当たり前でしょ?中学生なんだから」


「あのなぁ…お前はワシの孫。悪の限りを尽くす男にならんか――!」


「断る」



今の表情、十分妖怪らしく見えたんだけど…



『ぬらじぃ、お邪魔するよ』


「…奏ちゃんからも言ってくれ。速く継げと」


『前にも言ったけど部外者が口はさむことじゃないでしょ』



リクオと共に玄関を上がる。なぜ私が居るかって…?別にいいじゃん、そんなこと。



『あ、おいしそう。私にもちょうだい』


「あ、奏様。どうぞ」


『ありがと』



玄関で高級菓子を食べていた子妖怪の元に行き、自分も貰う。こう見えても甘い食べ物は好きなんだよね。



「……何その高級菓子」



途端、ぬらじぃに掴みかかるリクオ。奏は菓子片手にそれを見守る。つまり観戦。



『コレ、誰から?』


「鴆一派の鴆様からですよ」


『へぇ、来てるんだ』


「会いに行かれるのでしたら、居間にいらっしゃいますよ」


『ありがと。…それより、リクオ止めなくていいの?』


「Σあ、若ぁ!総大将ぉおお!」



指摘すれば、菓子に群がっていた子妖怪全てが止めに行った。



『さて、久しぶりに会いに行きますか』



奏は先ほど教えられた居間へと向かった。










カコーン



ししおどしが鳴るなか、今の襖を少し開ける。



『……失礼』


「誰だ?」



中に入り、襖を閉める。背後から殺気にも似た妖気があふれる。



『久しぶりだね、鴆』


「オレには人間の知り合いはいねぇ。おまえ、誰だ?」


『……ああ、この姿じゃ分からないのも当然か』



ふと気付いたのは今の姿。鴆と会うときは、いつも妖怪の姿で会いに行っていたのを忘れていた。



「この姿とは、どういう事だ…?」



この薄暗さなら力が大きくなった今の自分なら、妖怪になれるだろう。目を閉じて、力を集中させる。



「ま、まさかお前…!」


『そのまさかだよ』



目を開ければ先ほどとは違う自分。髪は黒から銀になり、獣耳が。目は水色から赤に。
制服は着物になり、着物の裾からは銀色の6本の尾が見え隠れしている。



「こ、これは失礼いたしました!!まさかお嬢だったとは…」


『いや、今まで人間の姿を見せてなかったこっちにも非がある。警戒するのも当然。
それにお嬢じゃなくて、いつも通り名前で呼んで』


「……奏。先ほどの姿からは、全く妖気を感じなかった。完全な、人間だった」


『そりゃ制御してるし。あとは札を持ち歩いてるしね』


「札…?」


『そ、陰陽師に伝わる札。妖気を抑える効果があるから、他のザコに襲われないですむしね』



“陰陽師”と言った途端、鴆の顔が明らかに歪んだ。そりゃそうだ。妖怪と陰陽師は敵対する存在なのだから。



『…私には陰陽師の血が流れてる。普通は慕うどころか、襲うとこなんじゃないの?』


「それは…」


『いつも思うんだよね。もし私が完全に陰陽師側に寝返ったら…とか、考えないのかって。
……………………私を、殺さないのかってさ』



こんなことを言いに来たわけじゃなかった。ただ、何となく口に出ていた。嫌な沈黙が続く。



「オレは……」



ガラッ



鴆が何かを言おうとした時、タイミングがいいのやら悪いのやら…リクオが入ってきた。



「…若、お久しゅうございます!鴆でございます!」


「ぜ…鴆さん!お、お久しぶり!」



まるで助かった、考える時間が出来たとでも言うような表情でリクオに話しかける鴆。

……初めて本音を聞けると思ったのになぁ……



「って、奏!?何その姿!?」


『何って…私の妖怪の時の姿』


「よ、妖怪!?奏って狐妖怪だったの?」


『知らなかったっけ?』



確かにこの姿を見せたのは、あの時以来だ。それ以外この姿になる時は大抵家だ。



『………二人で積もる話もあるだろうし、私はここら辺でお暇させてもらうよ』


「え、ちょっ!」


「…」



あまり今は鴆と顔を合わせずらい。此処は忘れてほしい所だが、忘れてくれることはないだろうな…
場所を変え、居間から離れた屋敷の屋根に上り、空を見上げる。



『……綺麗な夕日…今日は三日月かな』



夕日に染まる空にうっすらと存在する三日月。



『人間…陰陽師は“陽”妖怪は“陰”つまり“太陽”と“月”の様な対局に存在するもの』



ふと、父である雪陽菜と、母である瀬良から聞いた話が頭をよぎった。
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