騙し合う銀 本

□第3幕
2ページ/4ページ











「いいかい奏。今から話す事をよく聞いておくんだよ?」



「何があっても忘れちゃダメよ?」



ある日突然部屋に呼ばれたと思ったら、いつになく真剣な顔つきの二人が居た。



『あのときは、怒られるんじゃないかって思ってたっけ』



思わず「ごめんなさい」と謝った自分を二人は笑った。



「別に怒るワケじゃないよ。ただ、聞いておいてほしいんだ」



「貴方は私の“陰陽師”の血と、雪陽菜さんの“妖怪”の血を継いでいる。それは分かっているわよね?」



コクン、と頷いた。



「そのことで、周りから恨まれたり、非難の眼差しを向けられたりされるかもしれない。
妖怪と陰陽師は本来、交わることのない存在同士だからね」




そのころはまだ幼く、意味が分からなかったが、今なら理解できる。お父さんとお母さんの言いたかったこと…



「もし何かされても、決して相手を傷つけたりしちゃいけない。すればするほど、君の存在が危うくなる」



それは、この世から“排除”されること。つまり“死”を意味している。



「そうならないためにも、今のうちに仲間を増やさないといけない」



「それは私達に任せてちょうだい。でも…その後増えるか減るかは、大きくなったあなた次第よ」



「無闇やたらに、自分の素性を明かしてはいけない。信頼した人にだけ明かすんだ」



「きっとこれから苦しんだり、悩むこともあると思う…でも」



「僕達はいつまでも、奏の味方だ」



「何かあったら、遠慮なく言いなさい。貴方は私達の唯一無二の愛しい娘なんだから」



「それと、彼氏が出来たら一番に僕に報告する事」



「フフフ、これは厄介よ。奏ちゃんの彼氏さんは」



「人間でも妖怪でもいいが、どこの馬の骨だかわからん奴に、僕の娘を預ける気はない」



「かなりの親バカねぇ…奏ちゃん、雪陽菜さんに何か言われたら駆け落ちしちゃいなさい。
私達も、そうやって結ばれたのだから」




「な!?奏、それは許さないからな!!!」










思い出しただけで笑えてきた。あの頃理解できなかった“駆け落ち”も、今なら分かる。



『でも、こんな私と結ばれようとする人なんて、いないと思うなぁ』



月と太陽…決して一緒になることもなく、顔を合わす事もない。会うとしたら、それは皆既日食のときだけ。



『私が生まれた時も、皆既日食の日だったな』



まるで私のようだと、皆既日食には親近感がわく。



『鴆は、どう思ってるのかな』



今回の事で、また仲間が減るかもしれない。もし、自分がこの世界から必要とされていない、そう分かった時には――



『私は、消える――跡形もなく』



そうなるのは、偶然であり必然。運命であり定め。



『せめて寿命は全うしたいんだけどな』



屋敷が騒がしくなってきた。きっと先ほど出ていった鴆にリクオが謝罪にでもしに行くのだろう。



『行こうかな…でも』



鴆の屋敷にいる蛇太夫は何となく嫌だ。自分が受け入れても、心が拒絶するのだ。アイツは、危険だと―



『裏があるんだろうな』



きっとそうだ。この感じは今までにもあった。屋敷に行きこの感じがあると、数日後には裏切り者だったという事が何度もあった。



『ついてくか…鴆には拒絶されるかもしれないけど』



下の方でおぼろ車に乗っているリクオを見つけると、完全に狐の姿になる。



『炎で飛べるかな?』



思いつきで背中に翼の形の炎を出してみる。上下に動かすと、宙に浮く身体。



『おお、浮いた。これは―炎翼(エンヨク)―だ』



そのままおぼろ車の後を追った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ